- 西條奈加のシリーズ作品一覧
- 西條奈加のノンシリーズ作品一覧
- 『烏金』(初刊:2007年7月)
- 『千両かざり 女細工師お凜』(初刊:2009年4月)
- 『はむ・はたる』(初刊:2009年8月)
- 『御師弥五郎 お伊勢参り道中記』(初刊:2010年10月)
- 『四色の藍』(初刊:2011年5月)
- 『涅槃の雪』(初刊:2011年9月)
- 『世直し小町りんりん』(初刊:2012年2月)
- 『千年鬼』(初刊:2012年6月)
- 『三途の川で落しもの』(初刊:2013年6月)
- 『鱗や繁盛記 上野池之端』(初刊:2014年3月)
- 『六花落々』(初刊:2014年12月)
- 『睦月童』(初刊:2015年2月)
- 『ごんたくれ』(初刊:2015年4月)
- 『秋葉原先留交番ゆうれい付き』(初刊:2015年10月)
- 『九十九藤』(初刊:2016年2月)
- 『刑罰0号』(初刊:2016年8月)
- 『猫の傀儡』(初刊:2017年5月)
- 『銀杏手ならい』(初刊:2017年11月)
- 『無暁の鈴』(初刊:2018年5月)
- 『雨上がり月霞む夜』(初刊:2018年11月)
- 『永田町小町バトル』(初刊:2019年1月)
- 『せき越えぬ』(初刊:2019年11月)
- 『心淋し川』(初刊:2020年9月)
- 『曲亭の家』(初刊:2021年4月)
- 『婿どの相逢席』(初刊:2021年6月)
- 『六つの村を越えて髭をなびかせる者』(初刊:2022年1月)
- 『首取物語』(初刊:2022年9月)
- 『とりどりみどり』(初刊:2023年3月)
- 『姥玉みっつ』(初刊:2024年3月)
- 『バタン島漂流記』(初刊:2024年6月)
- 『かぜゆら』(初刊:2026年9月)
西條奈加のシリーズ作品一覧
金春屋ゴメスシリーズ(3作)
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『金春屋ゴメス』(初刊:2005年11月)
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『芥子の花 金春屋ゴメス』(初刊:2006年9月)
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『因果の刀 金春屋ゴメス』(初刊:2023年7月)
善人長屋シリーズ(4作)
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『善人長屋』(初刊:2010年6月)
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『閻魔の世直し 善人長屋』(初刊:2013年3月)
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『大川契り 善人長屋』(初刊:2015年11月)
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『牧谿の猿 善人長屋』(初刊:2024年12月)
お蔦さんの神楽坂日記シリーズ(5作)
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『無花果の実のなるころに お蔦さんの神楽坂日記』(初刊:2011年2月)
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『いつもが消えた日 お蔦さんの神楽坂日記』(初刊:2013年11月)
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『みやこさわぎ お蔦さんの神楽坂日記』(初刊:2016年10月)
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『よろずを引くもの お蔦さんの神楽坂日記』(初刊:2022年5月)
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『二月に憂鬱な君へ お蔦さんの神楽坂日記』(初刊:2026年6月)
西條奈加のノンシリーズ(単発)作品一覧(刊行順)
『烏金』(初刊:2007年7月)
江戸の貧乏長屋に現れた浅吉は、因業で知られる金貸し婆・お吟のもとへ押しかけ、商売を手伝い始める。借り手の暮らしを見つめ、知恵と度胸を働かせる浅吉のやり方は、ただ取り立てるのではなく、借金そのものをきれいにして貧しい人々を立ち直らせるものだった。次々と難題を片づけ、お吟の懐にも食い込んでいく若者だが、その親切と才覚の裏には容易に明かせない秘密がある。彼が狙う大金と、本当の目的とは何なのか。金に泣き、金に救われる市井の人生を、痛快な仕掛けと温かな眼差しで描く長編時代小説。情けだけでは救えず、勘定だけでも割り切れない借金を通して、人の値打ちを問い直す物語。読後感も爽快だ。
『千両かざり 女細工師お凜』(初刊:2009年4月)
錺職の老舗「椋屋」に生まれたお凜は、女には継げないとされる職人の道を諦めきれず、密かに銀線細工の腕を磨いていた。跡目争いに揺れる店へ現れた謎めく職人・時蔵は、江戸では見たこともない技で簪を作り、一門に大きな波紋を起こす。折しも天保の改革で贅沢品が禁じられ、椋屋の商いは苦境へ。そこへ神田祭を彩る、途方もない大仕事が舞い込む。江戸の町に活気を取り戻したい――同じ願いを胸に、孤高の時蔵とお凜は力を合わせる。因習と権力に抗い、ものづくりの誇りを貫く職人たちの熱気あふれる時代小説。精緻な銀の輝きと祭りの熱気の中で、技を受け継ぐことと自らの道を選ぶことが交差する。槌音まで胸に響く。
『はむ・はたる』(初刊:2009年8月)
掏摸やかっぱらいから足を洗い、まっとうな商いで生きようとする勝平たち十五人の孤児。貧しさも過去の傷も消えないが、力を合わせて暮らす彼らの周囲には、迷子のような事件や、誰にも言えない悩みが次々と持ち込まれる。厳しくも温かく見守る長谷部家の人々、口は悪いが情に厚い金貸しのお吟らに支えられ、子供たちは知恵と度胸で解決へ駆け回る。心に傷を負った若侍との出会いは、彼ら自身が抱える過去にも光を当てていく。自分たちの居場所を自分たちの手で拓こうとする少年少女の成長を、笑いと涙で描く連作時代小説。大人の都合に翻弄されながらも仲間を信じる姿が、貧しい長屋の日々に確かな希望を灯す。
『御師弥五郎 お伊勢参り道中記』(初刊:2010年10月)
訳ありの過去を抱える弥五郎は、伊勢詣の世話をする御師の手代見習いとして修業中。ある日、侍に襲われていた材木商・巽屋清兵衛を助けたことから、用心棒を兼ねてその伊勢参りに同行することになる。旅の段取りも客あしらいも未熟な弥五郎だが、剣の腕だけは確か。ところが一行には道中で次々と災難が降りかかり、清兵衛が狙われる理由も、旅の本当の目的も見えない。街道を進むにつれ、二人が隠してきた過去が少しずつ浮かび上がる。旅の賑わいと謎解き、再生への願いを織り込んだ、胸躍るお伊勢参り道中記。宿場ごとの出会いと別れを重ねる旅は、逃げてきた過去を見つめ直すための道にもなっていく。
『四色の藍』(初刊:2011年5月)
藍染めを営む紺屋「紫屋」の女将・環は、三か月前に夫を何者かに殺された。夫の技を狙う大店「東雲屋」が事件に関わると睨むものの、決め手はない。探索の中で出会ったのは、兄の仇を追う男装の女剣士、深い恨みを抱える遊女、したたかな洗濯婆。年齢も身分も気性も異なる四人の女は、それぞれの目的を胸に手を結び、巨大な商家へ挑む。さらに藍の産地・阿波藩の事情や同心の思惑も絡み、仇討ちは予想外の方向へ。愛する者を奪われた女たちが、知恵と覚悟を武器に真相へ迫る、痛快さと切なさを備えた時代エンターテインメント。藍の色を重ねるように四人の過去と思惑が交わり、復讐の先にある生き方を問いかける。
『涅槃の雪』(初刊:2011年9月)
天保の改革が始まった江戸。北町奉行・遠山景元の配下で働く吟味方与力の高安門佑は、融通の利かぬほど実直な男だった。縁あって元遊女のお卯乃を引き取るが、口が悪く家事も不得手な彼女との暮らしは戸惑いの連続。それでも二人の距離は少しずつ縮まっていく。一方、老中・水野忠邦の倹約令は芝居や商い、市井のささやかな楽しみまで奪い、江戸を息苦しく変えてゆく。上役への忠義、法を守る務め、庶民の苦しみ、そして己の正義。門佑は相反するものの間で何を選ぶのか。改革に翻弄される人々を描く中山義秀文学賞受賞作。権力者だけでなく取り締まる側の葛藤にも光を当て、歴史の波を市井の痛みから見つめ直す。
『世直し小町りんりん』(初刊:2012年2月)
長唄の師匠・お蝶は、三味線と美声に秀で、気風のよさから弁天と評判の女。兄嫁の沙十は、たおやかな色白美人で観音のような佇まい。人呼んで「弁天観音」の義理の姉妹には、町の困り事が次々と舞い込んでくる。井戸をめぐる騒動、若者たちの恋、隠された企み――二人は持ち前の機知と度胸で、こじれた人の心を解きほぐしていく。だが賑やかな日々の陰では、お蝶を狙う何者かの影が次第に大きくなっていた。父の死にもつながる因縁が動き出す中、美人姉妹は大切な人と町を守れるのか。粋と人情、緊張感が響き合う連作時代小説。芸の世界の華やかさと町人の暮らしを背景に、二人の絆が迫る危機の中で試されていく。
『千年鬼』(初刊:2012年6月)
森に迷い込んだ少女は、過去世を見せる不思議な小鬼と出会い、心に「鬼の芽」を宿してしまう。彼女を長い宿業から解き放つため、小鬼はさまざまな時代をめぐる旅へ出る。病の父を支えて奉公に耐える少年、愛する者を奪った男を苛む姫君、長屋でひとり生きる老婆、凶作の村で娘を守ろうとする農夫、色街へ流れ着いた姉妹。人の胸に芽吹く怒りや恨み、哀しみを集めながら、旅は千年の時を越えていく。鬼とは何か、人は因縁から逃れられるのか。連なる人生の痛みと慈しみを、昔話のような幻想と深い余韻で紡ぐ和風ファンタジー。独立した物語が時を越えて響き合い、最初の少女と小鬼を結ぶ因果へ静かに収束していく。
『三途の川で落しもの』(初刊:2013年6月)
現世への未練を抱えたまま三途の川へ来た死者は、黄泉へ渡るために必要な「地蔵玉」を落としてしまうことがある。落とし物を拾う役目を担うのは、川辺に暮らす少年・カンナと相棒のクロ。二人は死者が残した強い思いを解くため現世へ降り、悔いの根を探して走り回る。そこに待つのは、家族への言えなかった言葉、叶えられなかった約束、手放せない愛情。だが人の未練は、外から見えるほど単純ではない。死者と生者の心を結び直しながら、カンナ自身の秘密も少しずつ姿を現す。切なさと温かさが同居する連作和風ファンタジー。少し怖くてどこか可笑しい黄泉の仕組みが、別れを受け入れるまでの心の旅を優しく照らす。
『鱗や繁盛記 上野池之端』(初刊:2014年3月)
信州の片田舎から、上野池之端の料理屋「鱗や」へ奉公に出たお末。立派な店だと聞いていたのに、実際は料理も接客も三流で、連れ込み宿同然のさびれよう。主人も料理人もやる気を失い、煤けた店には昔の面影すらない。それでも働き者のお末は諦めず、客の腹と心を満たす店へ立て直そうと奔走する。食材、味つけ、もてなし、そして店で働く人々が抱える事情。一つずつ向き合ううち、鱗やに再び活気が宿り始めるが、再建の道は平坦ではない。料理屋の舞台裏と人の縁を生き生きと描く、滋味豊かな連作時代小説。料理をおいしくする工夫と同じように、人を生かすには何が必要かを明るく問いかけてくる。湯気まで目に浮かぶ。
『六花落々』(初刊:2014年12月)
下総古河藩の下級武士の子・小松尚七は、何を見ても「なぜ」と問い続けるため、周囲から変人扱いされていた。その尽きない探究心を見込まれ、やがて次期藩主となる土井利位の学問相手に抜擢される。蘭学や新しい知識に触れた尚七が心を奪われたのは、ひとつとして同じ形のない雪の結晶。重臣や蘭学者と交流し、観察と記録に没頭する日々は、藩政と幕政の大きなうねりにも巻き込まれていく。身分や古い常識の壁を越え、知りたいという思いはどこまで人を運ぶのか。雪華研究に情熱を注いだ人々を描く清新な歴史小説。好奇心を力に変える尚七の歩みは、身分に縛られた時代を越える学問の喜びを伝えてくれる。
『睦月童』(初刊:2015年2月)
日本橋の酒問屋「国見屋」に、陸奥の山里から奇妙な童女イオがやって来る。十二年に一度里へ降りる「睦月童」だという彼女は、人が隠す罪を目に映す不思議な力を持っていた。跡取り息子の央介は、遊び歩いていた自分を恥じ、イオを守りながら町の事件に向き合い始める。幼い少女が映し出すのは、悪事の証だけではなく、罪の奥にある恐れや悲しみでもあった。やがて二人の探索は、イオの故郷と睦月神をめぐる秘密へつながっていく。人の罪は裁けば消えるのか。江戸の賑わいと伝承の闇が交差する時代ファンタジー。無垢なイオと成長していく央介の絆が、怪異の背後に潜む人間の欲望をまっすぐに照らし出す。
『ごんたくれ』(初刊:2015年4月)
安永四年の京都。当代一の絵師を目指す豊蔵と彦太郎は、思いがけない出会いから互いの才を知る。強情で偏屈、会えば喧嘩ばかりの二人は、周囲から鼻つまみ者の「ごんたくれ」と呼ばれながらも、相手の絵に刺激を受け、競うように腕を磨いていく。円山応挙や与謝蕪村らが名を馳せる華やかな京画壇で、流行や師の教えに従うだけでは届かない表現を追い求める日々。貧しさ、孤独、評価への渇望に揺さぶられても、描くことをやめられない。実在の奇想の絵師たちをモデルに、創作の歓喜と苦悩を描く長編時代小説。才能とは、師とは、名を残すとは何か。絵に取り憑かれた者の業が、鮮烈な色彩を帯びて迫る。二人の友情も熱い。
『秋葉原先留交番ゆうれい付き』(初刊:2015年10月)
電気とオタク文化の街・秋葉原。その交番に勤める権田は筋金入りのオタク警官で、土地勘と細かな知識は抜群。相棒の向谷は長身のイケメンながら少々抜けており、代わりに誰とでも打ち解ける不思議な力を持つ。しかも彼には幽霊が見えるらしい。二人の前に現れたのは、膝から下だけの姿をした女性の幽霊・季穂。なぜ死んだのかも、何を望んでいるのかもわからない彼女をきっかけに、街の事件と人々の秘密がつながり始める。生者の声と死者の思いを拾い、凸凹コンビが謎を解く、笑いと切なさに満ちた人情ミステリー。メイドカフェや電気街など秋葉原ならではの舞台が、現代の孤独とつながりを映し出していく。
『九十九藤』(初刊:2016年2月)
江戸で人材を斡旋する口入屋。その女主人となったお藤は、武家相手の商いが行き詰まり、店の存続を懸けた勝負に出る。人を見る目と「商いは人で決まる」という信念を頼りに、古い慣習を破る大胆な策を進めるが、周囲の反発は強く、やがて江戸を揺るがす騒動へ発展していく。そんな折、かつて命を救ってくれた恩人によく似た男が現れ、封じてきた思いまで揺さぶられる。店を守る責任、仲間への信頼、運命の恋。曲がりくねった人生の先で、お藤は何を選ぶのか。働く人々の誇りと商いの真髄を描く長編時代小説。男社会の商いへ踏み込むお藤の決断が、縁に導かれてきた半生を新たな未来へ押し進める。逆境を越える力が湧く。
『刑罰0号』(初刊:2016年8月)
近未来、被害者が味わった恐怖や苦痛を加害者に追体験させる装置「0号」が開発された。死刑に代わり、罪を心から理解させる贖罪システムになるはずだったが、被験者の精神状態に左右され、研究は思うように進まない。しかも開発者の佐田洋介教授が私的に装置を使ったことが発覚し、研究所を追われてしまう。中止されたはずの計画は、部下の江波はるかによって密かに引き継がれるが、記憶を共有すれば人は本当に償えるのか。科学が心と正義の領域へ踏み込むとき、研究者と被験者の運命が交錯する。罪と罰の意味を問う社会派SF。被害の記憶は誰のものかという問いが、善意で始まった技術の危うさと人間の尊厳を照らす。
『猫の傀儡』(初刊:2017年5月)
江戸の猫町で暮らす野良猫ミスジは、失踪した先代・順松の後を継ぎ、猫たちの「傀儡師」に選ばれる。傀儡師とは、人間を操り、猫のために働かせて揉め事を解決する役目。相棒に決めたのは、おっとりした売れない狂言作者・阿次郎だった。最初の依頼は、百両もする朝顔を荒らした花盗人の濡れ衣を晴らすこと。猫の目で町を観察し、阿次郎を巧みに現場へ導くうち、人間たちの欲や哀しみが見えてくる。次々と依頼を解く一匹と一人は、やがて順松失踪の謎へ。猫が人を動かす逆転の発想が楽しい連作時代ミステリー。猫同士の掟と人間社会の可笑しさが交差し、愛らしさだけではない命のしたたかさが光る。猫好きにはたまらない。
『銀杏手ならい』(初刊:2017年11月)
子に恵まれないことを理由に離縁された二十四歳の萌は、実家へ戻り、父が営んでいた手習所「銀杏堂」を継ぐことになる。だが読み書きを教える腕も、個性の異なる筆子たちを導く自信もまだない。学び方が合わず落ちこぼれとされた子、酒好きだが人を見る目を持つ師匠、年を重ねて学び直そうとする人――さまざまな出会いを通じ、萌は一人ひとりの力を伸ばす教え方を探していく。世間の決めた役割から外れても、人生は何度でも習い直せる。教える者もまた教えられながら成長していく姿を、江戸の学び舎を舞台に温かく描く連作時代小説。筆子の個性に寄り添う日々は、離縁で立ち止まった萌が自分の価値を取り戻す歩みにもなる。
『無暁の鈴』(初刊:2018年5月)
武家の庶子として疎まれ、七歳で上野国の山寺へ預けられた久斎。寺でも兄僧たちに虐げられ、唯一の慰めは早朝の水汲みで村娘のしのと言葉を交わすことだった。しかし理不尽な出来事がしのを追い詰め、怒りと絶望にかられた久斎は寺を飛び出す。信じるものを失った彼は「無暁」と名乗り、道中で出会った万吉と江戸へ向かう。僧の道を離れても、世の矛盾や人の弱さは彼を追い続ける。何を信じ、誰を救い、どう生きるのか。少年期から老境まで、迷いと挫折を重ねながら己の答えを求めた一人の僧の生涯を描く長編時代小説。信仰に背を向けては立ち戻る長い歩みの果て、暁のない闇にも響く一筋の鈴の音が胸に残る。
『雨上がり月霞む夜』(初刊:2018年11月)
火事で店を失った秋成は、幼なじみの雨月が結ぶ庵に身を寄せる。人の言葉を話す兎との出会いをきっかけに、二人は常ならぬ出来事へ次々と巻き込まれていく。死者への執着、かなわぬ恋、嫉妬、復讐――怪異の背後にあるのは、時を越えて残る人間の強い情念だった。書くことに迷う秋成と、謎めいた雨月が耳を傾けるたび、恐ろしい話の輪郭から、哀しみや救いが浮かび上がる。上田秋成の『雨月物語』をモチーフに、江戸の現実と異界の境を鮮やかに結ぶ九つの物語。怖さのあとに静かな余韻が残る幻想時代小説。文学への敬意を込めつつ古典を大胆に読み替え、物語が生まれる瞬間そのものも映し出す。夜に読みたい一冊だ。
『永田町小町バトル』(初刊:2019年1月)
現役キャバクラ嬢でシングルマザー、夜の銀座で働く親のために託児施設を立ち上げた芹沢小町。その行動力と物怖じしない言葉が支持を集め、野党から衆院選に出馬して初当選する。だが男社会の永田町では、待機児童、ひとり親家庭の貧困、賃金格差といった切実な問題も、党利や面子の陰へ押しやられてしまう。法律を変え、予算を得なければ暮らしは変わらない。旧弊な政治の論理とメディアの視線にさらされながら、小町は当事者の声を国会へ届けようと奮闘する。異色の新人議員が閉塞した社会に風穴を開ける、痛快な政治エンターテインメント。子育ての当事者である彼女の怒りと現実感が、数字だけでは見えない政策の意味を突きつける。
『せき越えぬ』(初刊:2019年11月)
東海道・箱根の関所には、今日も切実な事情を抱えた旅人がやって来る。離縁され故郷へ帰る女、江戸から逃げる夫婦、禁制の品に国の未来を託す者たち。実直な番士・武藤一之介は、定められた掟に従いながらも、通行手形の向こうにある人生を見つめていた。そんな彼に、親友の騎山市之助から関所をめぐる法外な頼みが持ち込まれる。職務を守れば友を見捨て、友を救えば自らも罪に問われかねない。越すか、越さぬか――人の岐路を見張る男自身が、最大の決断を迫られる。幕末前夜の緊張と人情を描く連作時代小説。連作で出会う旅人たちの選択が一之介の決断へ重なり、関所という境の意味を浮かび上がらせる。
『心淋し川』(初刊:2020年9月)
江戸・千駄木町の片隅に、淀んだ小川「心淋し川」が流れる。川沿いの古びた長屋で暮らすのは、人生のどん詰まりでもがく人々。先行きに不安を抱える妾のりき、幼い子の唄に捨てた女の面影を探す飯屋の与吾蔵、住人の世話を焼きながら苦い過去を隠す差配の茂十。誰の心にも、人には見せられない澱がある。それでも互いの痛みに触れたとき、諦めかけた願いに小さな流れが生まれていく。哀しみと喜びが静かに連なり、一つの町の姿を結ぶ六つの物語。人の弱さを温かく見つめる、第164回直木賞受賞作。同じ川辺に生きる人々の物語がゆるやかに重なり、最後に差配が抱える秘密へたどり着く。静かな救いが胸に残る。
『曲亭の家』(初刊:2021年4月)
神田の医者の娘として自由に育ったお路は、人気戯作者・曲亭馬琴の一人息子、宗伯に嫁ぐ。ところが婚家は、気難しく家族を圧する舅、癇癪持ちの姑、病弱で怒りっぽい夫が暮らす息詰まる家だった。看病と家事、子育てに追われても、お路は持ち前の明るさと芯の強さで居場所を切り開いていく。やがて馬琴は視力を失い、未完の大作『南総里見八犬伝』を仕上げるため、お路に口述筆記を求める。作家の執念と家族への思いがぶつかる中、彼女は何を支えに筆を取るのか。名作完成の陰に生きた女性を描く歴史小説。耐えるだけではないお路の知恵と決断が、閉ざされた家と物語の未来を少しずつ変えていく。創作を支える覚悟が光る。
『婿どの相逢席』(初刊:2021年6月)
小さな楊枝屋の四男坊・鈴之助は、大店の仕出屋「逢見屋」の跡取り娘・お千瀬と恋を実らせ、晴れて婿入りする。だが祝言の翌朝、大女将から告げられたのは、店の差配は代々女が担い、婿は口を出さず跡継ぎをもうければよいという家の掟だった。それでも千瀬の力になりたい鈴之助は、前へ出ず、陰から店を支えようと知恵を絞る。商いの難題、姉妹の事情、家族の衝突。婿だからこそ見える綻びに、一つずつ向き合う誠実さが、やがて老舗を動かしていく。控えめな男の矜持と深い家族愛を描く人情時代小説。料理と仕出しの細やかな仕事を通じ、表に立たずとも家を支える強さが晴れやかに描かれる。食卓の風景も実に温かい。
『六つの村を越えて髭をなびかせる者』(初刊:2022年1月)
出羽の貧しい百姓家に生まれた元吉は、学問への情熱を胸に江戸へ出て、働きながら私塾で学ぶ。その才を認められ、最上徳内と名を改めて幕府の蝦夷地見分隊に加わることに。天明の飢饉と北方の脅威を背景に、未知の土地へ渡った徳内は、松前藩からアイヌとの接触を禁じられながらも、彼らの言葉と暮らしを知ろうとする。自然を敬い、土地に生きる人々と心を通わせるほど、幕府や藩の都合との隔たりは鮮明になる。度重なる失脚にも屈せず北方を歩き続けた探検家の生涯を、友情と師弟の絆を通して描く歴史巨編。地図と言葉を残そうとする姿勢は、未知を征服するのではなく理解しようとする探検の形を示す。
『首取物語』(初刊:2022年9月)
空腹に耐えかねた少年は、目の前の男から握り飯を奪う。だが同じ場面が何度も繰り返されていると気づいたとき、首だけの姿をした侍と出会う。少年も男も過去の記憶を失っており、なぜここにいるのか、男がなぜ首だけなのかもわからない。二人は独楽の国、波鳥の国、碧青の国など、理の異なる不思議な国へ次々と飛ばされる。出会いと別れを重ねるうち、失われた記憶の欠片と、旅を続ける理由が少しずつつながっていく。罪、赦し、絆の意味を問いながら、奇妙な道連れの運命を描く和風ファンタジー。幻想的な国々の美しさと残酷さが、二人の失った過去を映す鏡となり、旅の緊張を高めていく。結末への興味が尽きない。
『とりどりみどり』(初刊:2023年3月)
万両店に数えられる廻船問屋「飛鷹屋」の末っ子・鷺之介は、父が航海で留守がちの店で、三人の姉に囲まれて暮らしている。伝法で勢いのある長女、物事の核心を容赦なく突く次女、頭が切れて理屈っぽい三女。個性も主張も強い姉たちに振り回される毎日だが、町や店で不可解な出来事が起きると、四人はそれぞれの観察力を持ち寄り、思わぬ真相を見抜いていく。口喧嘩は絶えなくても、いざという時の結束は誰より強い。商家の賑わいと家族の愛情、軽やかな謎解きが彩る、笑って胸が温まる連作時代小説。姉弟の遠慮のないやり取りの奥に、亡き母と不在の父を含む一家の強い結びつきが息づく。船問屋の日常も賑やかだ。
『姥玉みっつ』(初刊:2024年3月)
名主の書役を務め上げたお麓は、歌を詠みながら一人静かに余生を送るつもりだった。ところが閑居へ、能天気なお菅と派手好きなお修という幼なじみ二人が転がり込み、穏やかな日々は一変。さらにお菅が空き地で倒れていた女と、声を出せない少女を見つけてくる。事情を抱えた母子を放っておけず、口も気性も異なる三人の婆は、にぎやかな共同生活を始めることに。少女の出自を探れば今の暮らしを失うかもしれない。それでも彼女の未来のために動く三人が、老いと孤独を笑い飛ばす。泣いて笑える痛快な時代小説。互いの欠点を知り尽くした幼なじみだからこその遠慮のなさと情の深さが、騒動を力へ変える。
『バタン島漂流記』(初刊:2024年6月)
船大工を志しながら挫折し、水夫へ転じた和久郎は、胸に屈託を抱えたまま廻船業に従事していた。ある航海で船が難破し、仲間たちと大海原を漂流することになる。水も食料も尽き、生還が絶望視される中、どうにか未知の島へたどり着くが、そこには異国の民との出会いと、さらに苛烈な試練が待っていた。信仰、仲間への疑い、故郷への執念。極限状態で露わになる人間の弱さと強さを抱え、和久郎たちは帰国の道を探す。史実に残る海難事故をもとに、鎖国下の非情さまで描く海洋歴史冒険小説。海上から漂着後、そして帰国まで続く困難の一つひとつが、仲間と生き延びる覚悟を試していく。息詰まる航海が続く。
『かぜゆら』(初刊:2026年9月)
江戸で風鈴を作る若き職人・宇多次は、亡き師匠の教えを胸に、澄んだ音を追い求めている。腕を磨いても、師が残した境地にはなかなか届かない。そんな彼が出会ったのは、心を閉ざした孤独な少年と、素性も目的もわからない謎めいた女。二人との関わりは、職人としての迷いだけでなく、宇多次自身が抱えてきた喪失にも触れていく。ガラスの形、舌が奏でる音、風が運ぶ一瞬の響き。消えてしまう音に、人はどんな思いを託すのか。ものづくりの誇りと人の縁を重ね、若い職人が師の教えを自分の技へ結実させるまでを描く江戸職人譚。まだ書誌情報の少ない新作ながら、風鈴の音と人の心を結ぶ静かな余韻への期待が高まる。