- 薬丸岳のシリーズ作品一覧
- 薬丸岳のノンシリーズ作品一覧
- 『天使のナイフ 新装版』(初刊:2005年8月)
- 『闇の底』(初刊:2006年9月)
- 『虚夢』(初刊:2008年5月)
- 『悪党』(初刊:2009年7月)
- 『ハードラック』(初刊:2011年9月)
- 『死命』(初刊:2012年4月)
- 『逃走』(初刊:2012年10月)
- 『友罪』(初刊:2013年5月)
- 『神の子 上』(初刊:2014年8月)
- 『神の子 下』(初刊:2014年8月)
- 『誓約』(初刊:2015年3月)
- 『アノニマス・コール』(初刊:2015年6月)
- 『Aではない君と』(初刊:2015年9月)
- 『ラストナイト』(初刊:2016年7月)
- 『ガーディアン』(初刊:2017年2月)
- 『蒼色の大地』(初刊:2019年5月)
- 『告解』(初刊:2020年4月)
- 『ブレイクニュース』(初刊:2021年6月)
- 『刑事弁護人 上』(初刊:2022年3月)
- 『刑事弁護人 下』(初刊:2022年3月)
- 『罪の境界』(初刊:2022年12月)
- 『怪物の祈り』(初刊:2023年4月)
- 『籠の中のふたり』(初刊:2024年7月)
- 『こうふくろう』(初刊:2025年6月)
薬丸岳のシリーズ作品一覧
刑事・夏目信人シリーズ(4作)
薬丸岳のノンシリーズ(単発)作品一覧(刊行順)
『天使のナイフ 新装版』(初刊:2005年8月)
幼い娘の目の前で妻を殺された桧山貴志。犯人は十三歳の少年三人だったが、彼らは刑事責任を問われず、被害者家族にはその後の姿さえ見えない。怒りと喪失を抱えながら娘を育てる桧山の暮らしは、四年後、少年の一人が殺されたことで再び揺さぶられる。かつて殺意を抱いた自分に疑いが向けられ、忘れることのできない事件が新たな謎と結びついていく。少年たちは何を背負い、誰がその命を奪ったのか。更生を信じる社会と、取り残された遺族の思いは交わるのか。法による裁きだけでは届かない痛みをたどり、罪を償うという行為の意味を問いかける。少年犯罪をめぐる正義の輪郭が、真相を追うほどに揺らいでいく社会派ミステリー。
『闇の底』(初刊:2006年9月)
子どもを狙った性犯罪が起きるたび、同じ種類の犯罪歴を持つ者が殺される。処刑人を名乗るサンソンは、殺人によって次の被害を防ごうとしていた。埼玉県警の刑事・長瀬は、前代未聞の連続事件を追い、法の外で振るわれる制裁の正体に迫っていく。しかし、捜査の先には、彼自身と犯人を結びつける過去の事件が待ち受けていた。守られるべき子どもたち、消えない欲望、憎しみが生む新たな暴力。卑劣な犯罪を止めたいという願いは、どこから別の罪へと変わるのか。犯人の論理を拒みながらも、被害の痛みを無視できない長瀬の追跡は、正義そのものの危うさを浮かび上がらせる。追う者と追われる者の過去が交錯する、緊迫した社会派サスペンス。
『虚夢』(初刊:2008年5月)
通り魔事件で娘を奪われた夫婦。犯人は心神喪失の状態にあったとされ、罪に問われなかった。悲しみと怒りを抱えたまま夫婦の関係も崩れ、男は妻と別れて暮らすようになる。それから四年。元妻から、娘を殺した男を街で見かけたと告げられ、止まっていた時間が再び動き始める。相手に近づこうとするほど、忘れられない記憶と、いま目の前にある現実との隔たりが深まっていく。罰を受けなかった加害者に、遺族は何を求められるのか。そして、自分が知りたいと願う真実は、本当に救いにつながるのか。犯罪と精神の病、壊れた家族の思いを重ねながら、人の心の脆さと強さを見つめる。喪失の底で揺れる感情が、謎の行方を変えていくミステリー。
『悪党』(初刊:2009年7月)
元警察官で探偵の佐伯に、老夫婦から人捜しの依頼が届く。捜してほしいのは、かつて息子を殺した男。彼を赦すべきかどうか、その判断に必要な材料を集めてほしいというのだ。犯罪を憎み、犯人への怒りを抱える佐伯は、依頼人の願いに戸惑いながら調査を始める。刑を終えた加害者はいま、どんな暮らしをしているのか。罪を犯した後の人生を知れば、遺族の心は変わるのか。さまざまな依頼を通して、佐伯は、事件が終わった後も続く被害者と加害者の苦しみに触れていく。憎しみを手放すことと、罪を忘れることは同じなのか。復讐と赦しの間にある答えの出ない問いを、探偵自身の痛みとともに描く。人を悪党と呼ぶときの確かさが揺らぐ連作ミステリー。
『ハードラック』(初刊:2011年9月)
二十五歳の仁は、日雇いの仕事まで失い、先の見えない暮らしに追い詰められていた。人生を変える大きなことをしようと、闇の掲示板で四人の仲間を募り、軽井沢の屋敷に押し入る。だが、その計画は思いもよらない形で崩れ、仁は放火殺人の汚名を着せられてしまう。頼れるはずの仲間はどこへ消えたのか。誰が自分を罠にはめたのか。身の潔白を示すため、仁は手がかりを追って逃亡を続ける。仕事も居場所も失った若者が、一度の選択でさらに深い窮地へ落ちていく。不運という言葉では片づけられない現実と、姿の見えない企みに挟まれた彼に、抜け道はあるのか。孤立した青年の焦りを追いながら、社会の底に潜む危うさを描く疾走感あるサスペンス。
『死命』(初刊:2012年4月)
若くしてデイトレードで成功した榊信一は、末期癌で余命がわずかだと告げられる。残された時間を前に、彼が決めたのは、胸の奥に隠してきた欲望に忠実に生きることだった。その決意を境に、連続殺人が始まる。一方、若い女性の絞殺体が見つかり、警視庁捜査一課のベテラン刑事・蒼井凌が捜査に当たる。犯人を捕らえようと執念を燃やす蒼井にも、やがて病が襲いかかる。死が近づくことで、一人は命を奪う道を選び、一人は命を守るために追い続ける。二人に残された時間は、刻々と減っていく。終わりの見えた人生で人は何を望み、何に責任を負うのか。欲望と使命を対照的に重ね、逃げ場のない追跡の中で生と死の意味を問う犯罪サスペンス。
『逃走』(初刊:2012年10月)
妹と二人、懸命に生きてきた青年の前に、死んだはずの男が現れる。二十一年間を支えてきた家族の記憶が揺らぐ中、青年は傷害致死事件の容疑者として指名手配される。妹思いで正義感の強い彼は、逃げ続ければ罪が重くなると知りながら、なお足を止めようとしない。彼の行方を追う刑事と、兄の無事を祈る妹。それぞれの思いが交錯する一方、事件の背後からは、長く隠されてきた家族の事情が姿を現していく。なぜ彼は逃げるのか。何を確かめ、誰を守ろうとしているのか。目の前の犯罪だけでは説明できない行動が、過去へつながる手がかりとなる。追跡の緊張と家族を思う切実さが重なり、信じてきた人生の輪郭を問い直すノンストップ・ミステリー。
『友罪』(初刊:2013年5月)
埼玉の小さな町工場で働き始めた益田は、同じ日に入社した鈴木と出会う。無口でどこか陰のある男だったが、同い年の二人は少しずつ打ち解け、互いを友人と感じるようになる。ところが益田は、鈴木が十四年前に日本中を震え上がらせた連続児童殺傷事件の犯人ではないかと疑い始める。目の前で知り合った一人の人間と、残酷な罪を犯した少年。その二つの姿が重なったとき、これまでの友情は何を根拠に保てばよいのか。過去を知ることへのためらい、被害者への思い、相手を信じたい気持ちが、益田の中でせめぎ合う。刑を終えた後も消えない罪と、更生を受け入れる社会の難しさ。人とのつながりを求める心に深く踏み込み、友情の意味を問い続ける長編小説。
『神の子 上』(初刊:2014年8月)
少年院に入った町田博史は、知能検査でIQ一六一以上を記録する。戸籍すら持たない境遇で育ち、頼れるものは自分の頭脳だけ。人に心を許さず、他人を顧みずに生きてきた少年の才能は、周囲に強い印象を与える。やがて町田は、同じ施設に収容された少年たちと脱走を企てる。その出来事は、彼のそれまでの生き方を揺さぶり、想像もしなかった日々へつながっていく。並外れた能力があれば、過酷な環境から抜け出せるのか。その力を求めて近づく人間を、彼はどう見分ければよいのか。愛情を知らずに育った少年の孤立と、才能に引き寄せられる者たちの思惑が交錯する。犯罪と更生、そして人との関わりを描きながら、一人の若者の行く先を追う長編の上巻。
『神の子 下』(初刊:2014年8月)
町田博史は、身元引受人の町工場で働きながら大学に通い、新しい暮らしを始めた。学生たちの起業を手伝うようになり、他人と過ごす時間が、それまで閉ざしてきた心を少しずつほどいていく。だが、過去は簡単には彼を手放さない。再び接近する室井の存在が、ようやく得た日常に影を落とす。人とのつながりを知った町田は、頭脳だけを頼りに生きてきた頃とは違う選択をできるのか。才能を求める者の思惑と、彼を支えようとする人々の願いがぶつかり、これからの人生が試されていく。生まれた境遇や犯した罪は、未来をどこまで縛るのか。過去から続く緊張と、新たな関係に芽生える希望を重ね、孤独な天才の行く先を描く。人が変わる可能性に迫る長編の下巻。
『誓約』(初刊:2015年3月)
家庭にも仕事にも恵まれ、穏やかな日々を送る向井聡のもとへ、一通の手紙が届く。そこに記されていたのは、かつての男たちが刑務所を出たという短い知らせだった。差出人も目的もわからない。だが向井には、その文面を見過ごせない理由がある。葬ったはずの過去が、現在の幸福に影を伸ばし始めたのだ。家族にも警察にも相談できず、彼は姿を見せない脅迫者に一人で向き合う。守りたい暮らしがあるほど、誰にも語れない事情が重くのしかかる。手紙の主は何を知り、彼に何をさせようとしているのか。かつての罪と、その後に築いた人生は切り離せるのか。故郷や家族をめぐる記憶が不穏な現在と重なり、過去との約束に追い詰められていく男を描くサスペンス。
『アノニマス・コール』(初刊:2015年6月)
三年前の事件を機に警察を辞め、妻とも離婚した朝倉真志は、自暴自棄な生活を送っていた。ある日、携帯にかかってきた無言電話に胸騒ぎを覚え、元妻の奈緒美へ連絡すると、別れて暮らす娘・梓の行方がわからなくなっていた。やがて奈緒美に、娘の誘拐を告げる匿名の電話が届く。真志は娘を救おうと動き始めるが、その追跡は、人生を変えた過去の事件へと彼を引き戻していく。一方、真志を信じきれない奈緒美も、独自に真相を探り始める。見えない犯人の狙いと、夫婦の間に残る隔たり。二人は同じ願いを抱えながら、危険の中で何を選ぶのか。警察への不信と家族への思いがせめぎ合い、一つの電話から過去と現在の謎が連なる、緊迫した誘拐サスペンス。
『Aではない君と』(初刊:2015年9月)
同級生を殺した疑いで、十四歳の息子・翼が逮捕された。仕事も暮らしも順調だった吉永の人生は、突然、殺人容疑者の父親という立場へ変わる。離婚後、元妻と暮らしていた息子は、事件について口を閉ざし、父にも心を見せようとしない。何が起きたのかを知りたい吉永は、親として息子に向き合い、少年審判へ向けてその声を聞こうとする。だが、愛しているという思いだけでは、子どもの心に届かない。被害者と遺族の痛みを前に、父親は何を引き受ければよいのか。息子を守ることと、犯した罪に向き合うことは両立できるのか。匿名の少年として語られる事件の内側で、一人の子どもとその父の葛藤を描く。沈黙の先にある真実を求め、親子の距離をたどる長編小説。
『ラストナイト』(初刊:2016年7月)
顔を豹柄の刺青で覆い、左手に義手を付けた五十九歳の片桐達夫が、出所後、古い友人の営む居酒屋に現れる。彼は三十二年の間に誘拐や強盗を重ね、刑務所を出入りしてきた男だった。しかし、最初の傷害事件は、暴力団員から店と友人の妻を守るために起きたものだった。人を助けた男が、なぜその後も罪を犯し続けたのか。周囲を怯えさせる風貌と、昔を知る者の記憶との間に、容易には説明できない隔たりがある。表情の読めない片桐の胸に、どんな思いが隠されているのか。彼と関わる人々の視線を通して、繰り返される犯罪とその人生が別の輪郭を帯び始める。外見や前科だけでは見えない一人の人間の姿を追い、罪の奥にある切実さを問うミステリー。
『ガーディアン』(初刊:2017年2月)
新任教師の秋葉が赴任した中学校は、かつて荒れていたとは思えないほど落ち着いていた。その秩序を支えているのは、匿名の生徒たちによる自警団「ガーディアン」。問題のある生徒に制裁を加え、教師や親には存在を明かしてはならないという秘密の組織だった。不登校の生徒の事情を探る秋葉は、学校の平穏に隠れた仕組みに気づき、謎に迫ろうとする。大人が見落とす悩みを生徒同士で解決することは、救いなのか。正しさを掲げた制裁は、どこまで許されるのか。組織を支持する者も、疑問を抱く者も、それぞれの事情を抱えていた。教師と生徒の視点が交錯し、守るという言葉の意味が揺らいでいく。静かな教室の裏側で進む、正義と暴力の境界を描く学園ミステリー。
『蒼色の大地』(初刊:2019年5月)
明治の時代、幼なじみの新太郎、灯、鈴は、互いを思いながら、それぞれの人生を歩もうとしていた。だが彼らの行く手には、「海」と「山」という、古くから続く対立が横たわっている。個人の願いだけでは越えられない隔たりが、三人の運命を翻弄し、やがて国を揺るがす戦争へと巻き込んでいく。ともに過ごした記憶があっても、立つ場所が違えば、相手は敵になってしまうのか。時代が大きく変わる中で、三人は何を守り、誰を信じるのか。受け継がれた憎しみと、大切な人への思いがせめぎ合う。海族と山族の闘いを古代から未来まで描く「螺旋」プロジェクトの一作として、明治を舞台に、争いの中で生きる若者たちの選択を追う。歴史のうねりと人間の葛藤を重ねた長編。
『告解』(初刊:2020年4月)
大学生の翔太は、深夜、飲酒運転中に何かを撥ね、その場から逃げてしまう。翌日、事故で老女の命を奪ったと知るが、恐怖に囚われた彼は、自分がしたことを直視できない。やがて四年を超える実刑を受け、刑務所で過ごすことになる。一方、妻を失った夫は、ある思いを抱いて翔太の出所を待ち続けていた。刑期を終えれば、償いも終わるのか。若者の軽率な選択が壊したのは、被害者の命だけではなかった。元の生活へ戻ろうとする加害者と、戻らない日々を抱える遺族。二つの人生を見つめるほど、罰と贖罪の間にある隔たりが浮かび上がる。逃げた夜の出来事は、その後の時間に何を残したのか。消えない罪を背負って生きることの意味を問いかける長編小説。
『ブレイクニュース』(初刊:2021年6月)
自称ジャーナリストの野依美鈴は、児童虐待や冤罪事件、パパ活などを独自に取材し、YouTubeのチャンネル「ブレイクニュース」で配信している。既存の報道では見えにくい現実に踏み込み、当事者の声を届けようとする姿は注目を集める一方、誹謗中傷にもさらされる。それでも美鈴は取材をやめない。人々の関心を引く映像の向こうに、何が取り残されているのか。真実を明らかにする行為と、他人の人生をさらす行為は、どこで分かれるのか。さまざまな問題に切り込む彼女の歩みを追ううち、活動を支える個人的な目的が新たな謎として浮かび上がる。匿名の声があふれる社会で、誰が何を伝え、受け取るのか。ネット時代の正義と報道のあり方を問う社会派ミステリー。
『刑事弁護人 上』(初刊:2022年3月)
犯罪被害者の家族でありながら、刑事弁護に使命を感じる持月凛子。彼女は、ホストがマンションの一室で撲殺された事件で、同僚の西大輔とともに被疑者の弁護を担当する。逮捕された垂水涼香は、被害者の勤めるホストクラブに通っていた現職の警察官だった。相手の暴行に抵抗して殴ったという涼香の供述には、次第に綻びが目立ち始める。依頼人を信じたい凛子と、真実を知らなければ弁護はできないと考える西。二人は、涼香と被害者の過去の因縁を調べていく。語られた事情のどこに嘘があり、何が隠されているのか。犯罪を憎む思いと、被疑者の権利を守る責任の間で揺れながら、弁護士たちは事件の奥へ踏み込む。刑事弁護の意味を問う長編の上巻。
『刑事弁護人 下』(初刊:2022年3月)
ホスト殺害事件の弁護を進めていた持月凛子と西大輔は、被害者の前科を調べる中で、突然、被疑者の涼香から解任を告げられる。なぜ彼女は供述に嘘を重ね、真相へ近づこうとする二人を遠ざけるのか。なお事情を探る弁護士たちは、涼香が一人息子を亡くした四年前の出来事にたどり着く。目の前の殺人の裏には、幼い子どもへの残忍な性的虐待事件が影を落としていた。刑事を辞めて弁護士となった西と、被害者家族としての痛みを抱える凛子。異なる経験を持つ二人にとって、依頼人を弁護するとは何を意味するのか。被害と加害の境目で交錯する思いをたどり、隠された事実に向き合っていく。法の手続きだけでは捉えきれない人間の苦しみに迫る長編の下巻。
『罪の境界』(初刊:2022年12月)
無差別通り魔事件の加害者・小野寺圭一を取材しようと、フリーライターの溝口省吾が接触する。事件をノンフィクションとして出版したいという申し出に、小野寺が出した条件は、自分を捨てた母親を捜し出すことだった。溝口は母の行方を探るため、加害者が歩んできた人生をたどり始める。なぜ、その条件を求めるのか。事件を知る手がかりは、本人の言葉だけで十分なのか。無関係だったはずの人生を一瞬で結びつける犯罪と、そこに至るまでの時間。過去を知ることは罪の理解につながるのか、それとも別の問いを生むのか。取材が進むにつれ、事件を一つの物語として語る難しさが浮かび上がる。加害者の生い立ちと交錯する人生を追い、罪を分ける境界を問うミステリー。
『怪物の祈り』(初刊:2023年4月)
牧師の保阪宗佑は、妊娠中の娘を凶悪な殺人事件で失う。四人の命を奪った犯人は、死刑判決を受けても反省の姿を見せなかった。人々の救いを祈ってきた宗佑の胸にあるのは、犯人を地獄へ突き落としたいという激しい憎しみ。その思いを抱えながら、彼は受刑者の精神的な救済に当たる教誨師として、娘を殺した男に会う方法を模索する。罪の意識を持たない相手に、言葉は届くのか。死刑執行の日が迫る中、信仰と復讐の間で苦しむ父と、命を奪った男との対話が始まる。命の重さを語ることは、自らの怒りにも向き合うことだった。赦しや救いという言葉では収まらない葛藤を見つめ、人間の心の深部へ迫る長編。『最後の祈り』を加筆修正し、改題した作品。
『籠の中のふたり』(初刊:2024年7月)
弁護士の村瀬快彦は、傷害致死事件を起こした従兄弟・蓮見亮介の身元引受人となり、釈放後、二人で暮らし始める。幼い頃に母を自殺で失って以来、快彦は他人と深く関わることを避けてきた。そんな彼の暮らしに、人懐こく明るい亮介が入り込み、閉じていた心が少しずつ動き出す。だが、母が結婚前に父へ送った手紙を見つけたことで、快彦は自身の出生に関わる秘密へ向き合うことになる。亮介の犯した罪と、自分を縛ってきた過去。身近な相手にも語れなかった事情を知ったとき、二人の関係はどう変わるのか。人との距離を保つことで守ってきたものは、本当に自分を救っていたのか。互いの痛みを受け入れられるかという問いを通して、友情の可能性を描く長編小説。
『こうふくろう』(初刊:2025年6月)
二〇二〇年、コロナ禍。孤独と不安を抱える大学生の芹沢涼風は、池袋の公園で、行き場を失った人々と出会う。血のつながりや戸籍に頼らず、強い絆で結ばれた本物の家族を作りたい。そう願った涼風は、親しくなった仲間と「こうふくろう」を立ち上げる。居場所を求める人々が集まり、集団は想像を超えて大きくなっていく。しかし、その内部では、いつしか犯罪行為が日常的に繰り返されるようになる。支え合いたかったはずのつながりは、どこへ向かうのか。家族という言葉の温かさの中に、どんな危険が入り込んでいたのか。誰かと結ばれたい切実な願いと、孤独につけ込む社会の闇が交錯する。身近な日常から不穏さが広がり、人の居場所をめぐる深い怖さを描く長編ミステリー。