宮部みゆきのシリーズ作品一覧
茂七シリーズ(6作)
ドリームバスターシリーズ(5作)
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『ドリームバスター1』(初刊:2001年11月)
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『ドリームバスター2』(初刊:2003年3月)
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『ドリームバスター3』(初刊:2006年3月)
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『ドリームバスター4 時間鉱山 前篇』(初刊:2007年5月)
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『ドリームバスター5 時間鉱山 後篇』(初刊:2007年5月)
杉村三郎シリーズ(5作)
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『誰か Somebody』(初刊:2003年11月)
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『名もなき毒』(初刊:2006年8月)
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『希望荘』(初刊:2016年6月)
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『昨日がなければ明日もない』(初刊:2018年11月)
ぼんくらシリーズ(3作)
三島屋シリーズ(10作)
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『おそろし 三島屋変調百物語事始』(初刊:2008年7月)
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『あんじゅう 三島屋変調百物語事続』(初刊:2010年7月)
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『泣き童子 三島屋変調百物語参之続』(初刊:2013年6月)
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『三鬼 三島屋変調百物語四之続』(初刊:2016年12月)
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『あやかし草紙 三島屋変調百物語伍之続』(初刊:2018年4月)
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『黒武御神火御殿 三島屋変調百物語六之続』(初刊:2019年12月)
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『魂手形 三島屋変調百物語七之続』(初刊:2021年3月)
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『よって件のごとし 三島屋変調百物語八之続』(初刊:2022年7月)
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『青瓜不動 三島屋変調百物語九之続』(初刊:2023年7月)
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『猫の刻参り 三島屋変調百物語拾之続』(初刊:2025年2月)
ボツコニアンシリーズ(5作)
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『ここはボツコニアン1』(初刊:2012年2月)
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『ここはボツコニアン2 魔王がいた街』(初刊:2012年11月)
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『ここはボツコニアン3 二軍三国志』(初刊:2013年8月)
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『ここはボツコニアン4 ほらホラHorrorの村』(初刊:2014年9月)
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『ここはボツコニアン5 FINAL ためらいの迷宮』(初刊:2015年9月)
きたきた捕物帖シリーズ(3作)
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『きたきた捕物帖』(初刊:2020年6月)
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『子宝船 きたきた捕物帖2』(初刊:2022年5月)
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『気の毒ばたらき きたきた捕物帖3』(初刊:2024年10月)
宮部みゆきのノンシリーズ(単発)作品一覧(刊行順)
『魔術はささやく』(初刊:1989年12月)
一見つながりのない三人の女性が、次々と自ら命を絶った。叔父の家に身を寄せる高校生・日下守は、タクシー運転手の叔父が最後の女性の死に関わったと疑われたことから、事件の背後を探り始める。やがて、母の過去にまつわる痛みと、他人の心を操る恐るべき「魔術」の輪郭が見えてくる。偶然に見えた死を結ぶものは何か、守の家族に向けられた悪意の正体は誰なのか。少年のまっすぐな眼差しが都会の闇を照らし、心理操作の恐怖と人が再び立ち上がる力を描く、日本推理サスペンス大賞受賞作。家族の名誉を守ろうとする守の孤独な追跡は、言葉や暗示が人の意志をどこまで奪えるのかという不穏な問いへ読者を導いていく。
『我らが隣人の犯罪』(初刊:1990年1月)
念願の新居へ移った一家を悩ませるのは、隣家の犬ミリーの激しい鳴き声。中学生の「僕」と妹は、親しい大学生のおじさんを巻き込み、犬を一時的に誘拐する大胆な作戦を立てるが、計画は思いもよらない方向へ転がり始める。表題作のほか、転校生をめぐる騒動、風変わりな卒業研究、殺人を祝う電報、自殺志願者の思惑など、日常の小さな違和感から鮮やかな謎が立ち上がる五編を収録。子どもの機転と大人の事情を温かなユーモアで包み、驚きの先に人間への愛おしさが残る、著者の原点となった第一短編集。巧妙な伏線と鮮やかな反転を備えながら、子どもや老人など弱い立場の人の声を聞き逃さない優しさが、どの物語にも息づいている。
『刑事の子』(初刊:1990年4月)
東京の下町で、絞殺された女性の遺体が相次いで見つかる。刑事を父に持つ中学生の順は、近所でささやかれる「次に殺されるのはあの家の人」という不気味な噂を耳にし、級友と真偽を確かめようと動き出す。ところが好奇心から始めた調査は、父が追う連続殺人事件と交差し、少年自身にも危険が迫る。家では仕事の話をしない父の背中、事件に翻弄される家族、噂が人の心を変えていく怖さ。大人の捜査と少年たちの冒険を重ねながら、親子の信頼と正義を問いかける、緊張感あふれる青春ミステリー。捜査の論理と子どもの直感がすれ違いながら近づく構成も見どころで、下町の生活感が張りつめた事件に確かな温度を与えている。
『レベル7』(初刊:1990年9月)
目覚めた男女には記憶がなく、腕には「Level 7」の文字が残されていた。部屋には大金と拳銃、そして血の跡。一方、カウンセラーのみさおは、相談相手だった女子高生の失踪を知り、少女が残した「レベル7まで行ったら戻れない」という言葉を手がかりに行方を追う。自分たちは何者で、何をしたのか。別々に始まった二つの探索は、刻一刻と接近し、過去の犯罪と周到な罠を映し出していく。記憶を失った者の恐怖と追う者の焦燥を交互に描き、四日間のタイムリミットを疾走する長編サスペンス。追われる側と捜す側の時間が交互に刻まれ、わずかな手がかりが意味を変えるたび、見知らぬ二組の運命が同じ一点へ収束していく。
『龍は眠る』(初刊:1991年2月)
嵐の夜、雑誌記者の高坂は道路上の異変に気づき、蓋の外れたマンホールへ転落した車を発見する。現場で出会った少年・稲村慎司は、事故が起きることをあらかじめ知っていたかのように語った。自らを超能力者だという慎司を疑いながら取材を始めた高坂は、もう一人の少年と、その力を利用しようとする者たちの影に近づいていく。人の心を読めることは才能か、それとも孤独を深める呪いなのか。少年たちの切実な友情と大人の欲望がせめぎ合い、真実を見抜くことの痛みを問う、日本推理作家協会賞受賞作。記者として真実を求める高坂の倫理も試され、力を証明したい少年と力から逃れたい少年、それぞれの願いが胸を締めつける。
『返事はいらない』(初刊:1991年10月)
失恋をきっかけに犯罪へ手を染めようとする女性、電話の向こうにだけ心を開く孤独な少女、言えない秘密を抱えた家族。表題作「返事はいらない」をはじめ、都会の片隅で行き場を失った人々が、思いがけない事件や出会いを通して新しい一歩を探す六編を収録する。ごく普通の暮らしに潜む嘘や罪を丁寧にすくい上げながら、追い詰められた心にも届く小さな善意を鮮やかに描写。謎解きの驚きと切実な人間ドラマが響き合い、苦い現実のあとに静かな希望が灯る、初期の魅力に満ちたミステリー短編集。犯罪の被害者と加害者を単純に分けず、選び損ねた人生にも耳を澄ます視線が、六つの結末にそれぞれ異なる余韻をもたらす。
『スナーク狩り』(初刊:1992年6月)
別れた恋人への復讐を決意した慶子は、男の結婚式へ散弾銃を持ち込もうとする。だが、彼女を止めようとした青年・修治が銃を奪って姿を消し、さらに別の場所では余命を告げられた男が最後の仕事へ向かっていた。一丁の銃を軸に、愛する者を奪われた人、罪を償おうとする人、事件を追う警察の運命が一夜のうちに交差する。それぞれが追う「スナーク」とは何なのか。孤独と怒りに突き動かされた人々の選択を息詰まる速度で描き、最後まで先を読ませない群像サスペンス。善意で引いたはずの引き金が別の誰かを追い詰めていく恐怖の連鎖が緻密に組まれ、登場人物全員の焦りが夜明けまで一瞬も途切れず加速する。
『火車』(初刊:1992年7月)
休職中の刑事・本間俊介は、遠縁の青年から失踪した婚約者を捜してほしいと頼まれる。女性はかつて自己破産しており、青年がその事実を知った直後に姿を消していた。足取りを追う本間の前に現れるのは、名前も経歴も異なるもう一人の女。誰が誰の人生を生きていたのか。カード社会と多重債務の闇をたどる調査は、他人の身分を必要とした者の凄絶な過去へ迫っていく。姿なき女性を追う静かな緊張の中に、消費社会の罠と生き直したい願いを刻んだ、山本周五郎賞受賞の社会派ミステリー。本間の地道な聞き込みから、制度の隙間に落ちた女性たちの声が立ち上がり、追跡劇はやがて名前と人生をめぐる重い問いへ変わる。
『長い長い殺人』(初刊:1992年9月)
保険金殺人の疑いがかかる轢き逃げ事件。刑事、被害者、容疑者、探偵、証人、そして犯人――十人の持ち物である「財布」が、それぞれの目で事件の断片を語り始める。財布は持ち主の会話を聞き、金の出入りを見守りながらも、自ら警告することはできない。ばらばらに見える十の物語がつながるとき、周到に仕組まれた犯罪と、その周囲で傷つく人々の姿が浮かび上がる。ユニークな語り手が生む可笑しみと不穏さ、緻密な構成の妙を味わえる、連作十編で一つの事件を描く長編ミステリー。物言わぬはずの財布たちは時に皮肉を語り、時に持ち主を案じる。その個性豊かな声が、金と欲望に翻弄される人間を映す鏡になる。
『とり残されて』(初刊:1992年9月)
事故のあと、周囲から自分だけが取り残されたように感じる女性。人の記憶に残る不可思議な場所、亡き者の気配、偶然居合わせた男が抱える秘密。表題作「とり残されて」をはじめ、日常のすぐ隣に開く異界と、そこに触れた人々の心の揺れを描く七編を収録する。超常の出来事を単なる恐怖で終わらせず、喪失や罪悪感、誰かを思う気持ちへとつなげていく筆致が鮮やか。謎がほどけたあとに残るのは、ぞくりとする余韻と切ない温もり。ミステリー、幻想、ホラーの魅力を一冊で楽しめる短編集。生者と死者の境界がふと薄くなる瞬間を端正に描き、怪異に遭遇した人が何を持ち帰るのかまで見届ける七編が心に残る。
『ステップファザー・ステップ』(初刊:1993年3月)
プロの泥棒である「俺」が仕事先の屋根から落ちたのは、両親がそろって失踪した家の前だった。そこで暮らす中学生の双子に弱みを握られ、なぜか父親代わりを務めることになる。知恵も行動力も並外れた双子が持ち込むのは、学校の騒動から犯罪の匂いがする難事件まで難物ばかり。自由を愛する泥棒と、家族に飢えた兄弟は、反発しながらも奇妙な絆を育てていく。軽妙な会話、意外な謎解き、ふと胸を突く寂しさが同居する七編を収録。血縁だけではない家族の形を描く、ユーモアたっぷりの連作ミステリー。事件を解くたび、父親を演じているだけだった「俺」の中にも守りたい日常が生まれていく。その変化が笑いの奥に確かな感動を添える。
『淋しい狩人』(初刊:1993年10月)
東京下町の小さな古書店・田辺書店。老店主の岩永幸吉と孫の稔が切り盛りする店には、本を求める客だけでなく、過去の悔い、家族の秘密、言葉にできない孤独を抱えた人々が訪れる。一冊の古書や何気ない会話を手がかりに、二人は日常の奥に隠れた事件を静かに見つめていく。六月の嘘、謝れなかった年月、万引き少年の沈黙、歪んだ鏡のような記憶――六つの物語が、本と人を結ぶ縁を描き出す。派手な名探偵ではない祖父と孫の温かな眼差しが、ほろ苦い謎の先に救いを灯す連作ミステリー。古書に刻まれた記憶と持ち主の人生が重なるたび、幸吉の静かな洞察が、警察の捜査だけでは拾えない真相と救いを引き寄せる。
『地下街の雨』(初刊:1994年4月)
婚約者に別れを告げられ、行き場を失って地下街をさまよう女性。見えないものに脅かされる夫婦、電話線の混線から始まる奇妙な縁、勝ち逃げしたように見える人生の代償。都会の雑踏に紛れた孤独や不安をすくい取り、現実と幻想の境目が揺らぐ七つの物語を収録する。誰にも気づかれない痛みが事件を呼び、思わぬ出会いが閉ざされた心を動かしていく。冷たい雨のような喪失感の中にも、人がもう一度歩き出すための微かな光を差し込む、ミステリーと幻想が溶け合った短編集。雨や地下道、電話の声など都会的な風景が登場人物の不安と呼応し、すれ違う他者同士の間に生まれる一瞬の共感を鮮やかに切り取る。
『鳩笛草 燔祭/朽ちてゆくまで』(初刊:1995年9月)
人にはない力を持つことは、祝福なのか、それとも逃れられない重荷なのか。事故を予知する女性、念じるだけで火を放てる女性、過去を見通す力を失いつつある女性――三人は能力ゆえに大切なものを傷つけ、自分の居場所を見失っていく。「朽ちてゆくまで」「燔祭」「鳩笛草」の三編が、予知・念力放火・透視という異能と孤独を異なる角度から描写。犯罪への怒りと誰かを救いたい願いが危うく重なり、力を使う者の倫理を問いかける。超能力サスペンスと切実な人間ドラマが響き合う中編集。異能者を英雄にも怪物にもせず、普通に愛し愛されたい女性として描くことで、力を持つ者の責任と、その力を求める社会の冷酷さが際立つ。
『人質カノン』(初刊:1996年1月)
深夜のコンビニに強盗が押し入り、居合わせた客と店員は人質になる。極限の恐怖の中で、犯人が落とした奇妙な品が、そこにいた一人の過去を呼び覚ます――表題作「人質カノン」。長い時間をかけた復讐計画、雪の日の記憶、持ち主のいない手帳、生き残った者の戸惑いなど、犯罪や偶然に日常を揺さぶられた人々を描く七編を収録する。事件そのものの派手さではなく、選択の前後に生まれる心のひだを見つめ、苦味の中に再生の可能性を残す。静かな驚きが連なる現代ミステリー短編集。題材も語り口も異なる七編を貫くのは、危機のあとに残された人がどう生きるかという問い。短い一篇ごとに意外な反転と深い余韻が待つ。
『蒲生邸事件 上』(初刊:1996年9月)
大学受験に失敗した浪人生・尾崎孝史は、予備校受験のため泊まったホテルで火災に遭い、謎の男に救われる。外へ出た彼が目にしたのは、雪に閉ざされた昭和十一年二月の東京だった。男は時間旅行者で、ホテルの場所には蒲生大将の屋敷が建っているという。帰る術を失った孝史は身分を偽って屋敷に入り、やがて二・二六事件前夜の緊張と蒲生家の秘密に巻き込まれていく。歴史は変えられるのかという問いと、過去を生きる人々の息遣いが交錯する日本SF大賞受賞作・上巻。昭和史を知らない孝史の素朴な疑問が、教科書の中の出来事を生身の選択として照らし出し、蒲生家の人々との距離を少しずつ変えていく。
『蒲生邸事件 下』(初刊:1996年9月)
二・二六事件当日、決起部隊に囲まれた蒲生邸で大将が死んだ。自決と見られた現場から拳銃が消え、閉ざされた屋敷の人々に殺人の疑いが向けられる。現代から来た孝史は、時間旅行者の力を借りながら、蒲生家の確執と事件の真相を追う。一方、戒厳令下の東京では歴史を変えたい願いと、変えてはならないという思いが激しくぶつかる。未来を知る少年は、目前の悲劇にどう向き合うのか。SF、本格ミステリー、昭和史が一体となり、選択の意味を深く問う日本SF大賞受賞作・下巻。歴史の大きな流れと一人の命を救いたい思いを同じ重さで描き、過去への旅を終えた孝史が持ち帰るものを、切実な青春の物語として問いかける。
『理由』(初刊:1998年5月)
東京・荒川区の高層マンションで四人が惨殺された。ところが被害者たちは、そこに住むはずの家族とは別人で、部屋の所有者も競売で取得した人物も姿を見せない。事件後、関係者への取材記録を積み重ねる形で、占有屋、家族、近隣住民、捜査員らの証言が少しずつ組み合わされていく。なぜ見知らぬ者たちが同じ部屋に集まり、誰が殺したのか。バブル崩壊後の住宅問題と、互いを知らない都市生活者の孤独を背景に、一つの犯罪を多面的に再構成する直木賞受賞の社会派ミステリー。証言者は皆、自分の見えた範囲で語り、その言葉には思い込みや保身も混じる。読者は取材者とともに断片をつなぎ、所有する家と暮らす家のずれが生んだ悲劇へ近づいていく。
『ほのぼのお徒歩日記』(初刊:1998年6月)
時代小説を書くなら、舞台となった江戸を自分の足で確かめたい。宮部みゆきと仲間たちの「お徒歩隊」は、古地図や資料を手に、忠臣蔵ゆかりの道、将軍の上洛路、罪人が送られた街道などを歩き始める。史跡を訪ねる真面目な目的はありつつも、道中は寄り道、食事、勘違い、疲労との格闘の連続だ。現代の町並みの下に残る江戸の痕跡を見つけ、歴史上の人物を身近に感じていく四年間の紀行を軽妙に綴る。書き下ろし一編を加えた、散歩の相棒にもなる完全版エッセイ。歩いた距離だけでなく、準備の苦労や同行者との掛け合いもたっぷり収録。小説の舞台がどのように作者の身体感覚へ取り込まれていくかを覗ける、歴史好きにも楽しい一冊だ。
『クロスファイア 上』(初刊:1998年10月)
念じるだけで対象を燃やす力を持つ青木淳子は、法で裁かれない凶悪犯を密かに葬ってきた。ある夜、若者たちに連れ去られた女性を救おうとした彼女は、事件を追う刑事と接点を持ち、自分と似た存在を集める謎の組織からも目をつけられる。怒りを正義に変えてきたはずの力は、いつしか淳子自身を孤立させ、追う者と追われる者の境界を危うくする。念力放火という異能を軸に、私刑の是非と愛を求める心を描く超能力サスペンス上巻。かつて同じ力を持つ女性と出会った記憶も淳子の判断に影を落とす。炎の痕跡を追う警察の地道な捜査と、瞬時に人を焼く力の圧倒的な恐怖が並走し、破局への予感を高めていく。
『クロスファイア 下』(初刊:1998年10月)
強大な念力放火能力を持つ青木淳子は、犯罪者を裁く自警組織の誘いに揺れながら、自らの正義を問い直していく。彼女を追う刑事たちは不可解な焼死事件をつなぎ、能力者たちの存在へ迫る一方、淳子の心には守りたい人への思いが芽生えていた。悪を焼けば世界は正されるのか、それとも新たな暴力が生まれるだけなのか。警察、組織、能力者の思惑が一点に集中し、炎の力が最も過酷な選択を迫る。愛と自己犠牲を描く超能力サスペンス下巻。淳子を単なる制裁者としてではなく、孤独の中で愛と居場所を求める一人の女性として描く点が胸を打つ。炎を放つ瞬間より、その後に残るものの重さが物語を深く支配する。
『模倣犯1』(初刊:2001年3月)
東京の公園で若い女性の右腕とハンドバッグが発見され、持ち主は三カ月前に失踪した古川鞠子と判明する。やがて犯人を名乗る者がテレビ局へ電話し、遺族をあざ笑うように接触を始めた。鞠子の祖父・有馬義男、第一発見者の高校生・塚田真一、ルポライターの前畑滋子らは、メディアを舞台に進行する残酷な犯罪へ巻き込まれていく。被害者家族と捜査側の視点から連続誘拐殺人の幕開けを描く、全五巻の第1巻。犯人は捜査機関だけでなく、世間の好奇心までも計算に入れている。小さな豆腐店を営む有馬が孫娘の死と向き合う姿を通じ、犯罪報道の外側にある遺族の止まった時間を静かに描き出す。遺族の孤独も胸に迫る。
『模倣犯2』(初刊:2001年3月)
犯人からの通報を受け、失踪していた古川鞠子の遺体が発見された。自らの犯行を誇示し、報道を操ろうとする手口に世間は熱狂と恐怖で揺れる。特捜本部が前科者を洗う一方、ルポライター前畑滋子は、右腕の第一発見者で家族を惨殺された過去を持つ高校生・塚田真一を取材し始める。犯人の演出によって被害者と周囲の人生がさらに傷つけられ、事件は新たな暗部へ向かう。全五巻の第2巻。真一が背負う過去と現在の事件は、暴力の被害を受けた者が再び注目の的にされる残酷さを映す。滋子も取材する側の責任に深く迷いながら、孤立する少年と事件の見えない接点を慎重にたどっていく。報道の暴力も鋭く問われる。
『模倣犯3』(初刊:2001年3月)
群馬の山道から車が転落炎上し、二人の若い男が死亡した。トランクには別の遺体があり、乗っていた栗橋浩美と高井和明の名が大きく報じられる。さらに家宅捜索で被害女性の遺骨が見つかり、連続殺人は解決へ向かったかに見えた。だが、幼なじみだった二人の関係や事故までの足取りには、説明のつかない空白が残る。本当に彼らだけが犯人なのか。事件の裏側へ視点を移し、悪意の構図を組み替える全五巻の第3巻。事故死した二人を知る家族や友人の記憶から、同じ若者でも全く異なる輪郭が現れる。報道が作る単純な犯人像と、身近な者だけが知る生身の姿の大きなずれが、解決報道の後にも強い不安を残す。
『模倣犯4』(初刊:2001年3月)
特捜本部は栗橋浩美と高井和明を連続殺人の犯人と発表し、前畑滋子も事件のルポを連載し始める。残された焦点は、女性たちが監禁された場所の特定だった。そんな中、高井の妹・由美子は、兄は無実だと滋子に訴える。二人の同級生である網川浩一も後見人として報道の前に現れ、終わったはずの事件へ新たな物語を与えていく。記録と世論が真実を覆い隠す怖さを描き、再び事件を動かす全五巻の第4巻。兄を守りたい由美子の切実さと、彼女を支える網川の存在感が物語の重心を変える。滋子は公表された結論を疑い、捜査記録にも残らない家族の声から、事件に横たわる大きな空白へ迫っていく。沈黙の重さが胸に迫る。
『模倣犯5』(初刊:2001年3月)
高井和明は共犯者ではなく、事件に巻き込まれた被害者だった――。網川浩一は大胆な説を掲げて前畑滋子のルポに反論し、巧みな語り口で世間の注目を集めていく。兄の無実を信じたい由美子、真相を追う滋子、愛する者を奪われた遺族たちの思いは、メディアが作る「物語」に翻弄される。なお姿を見せない悪意と対峙し、それぞれが自分の言葉を取り戻せるのか。巨大犯罪劇が緊迫の局面を迎える全五巻の完結巻。真実を明かすことと、誰かをこれ以上傷つけないことは両立するのか。滋子と遺族たちが最後に選ぶ態度までを見届け、犯罪が終わった後もなお続く長い人生を深い余韻とともに描く。読後にも深い問いが残る。
『R.P.G』(初刊:2001年8月)
会社員の男性が自宅で殺され、ほどなく別居中の妻も遺体で見つかった。捜査線上に浮かんだのは、被害者がインターネット上で築いていた「疑似家族」。現実には面識の薄い者同士が、父、母、娘、息子という役を演じ、心を通わせていた。警察は一室に関係者を集め、家族の役割を再現する異例の聞き取りを始める。それぞれは何を隠し、なぜ別人を演じたのか。匿名の親密さと現実の孤独を鋭く描く文庫書き下ろしミステリー。演じた役柄は仮面だったのか、それとも現実の家族より切実な居場所だったのか。閉ざされた部屋で交わされる証言が少しずつ食い違い、遊びを意味する題名が次第に不穏な響きを帯びていく。
『あかんべえ』(初刊:2002年3月)
深川で料理屋「ふね屋」の新築が進むさなか、十二歳のおりんは病に倒れ、生死の境をさまよう。回復した彼女の目には、店に居つく五人の亡者が見えるようになっていた。幽霊たちは恐ろしくもどこか人間臭く、それぞれがこの世に残した思いを抱えている。店を襲う怪異と過去の事件を前に、おりんは亡者たちの声に耳を澄ませ、家族と居場所を守ろうとする。江戸の人情と本格的な謎解き、怖さと可笑しみが一つになった長編時代ファンタジー。幽霊たちがなぜ店を離れられないのかを探る過程で、土地と家族に長く刻まれた罪が浮かぶ。幼いおりんの勇気が、生者と死者の双方に閉ざされた記憶を語らせていく。人情も胸に沁みる。
『ブレイブ・ストーリー 上』(初刊:2003年3月)
小学五年生の三谷亘は、父の突然の離婚話で崩れていく家庭を前に、運命を変えたいと願う。謎めいた転校生・芦川美鶴を追って建設途中のビルへ入った亘は、扉の向こうに広がる異世界「幻界」を知る。そこでは旅を成し遂げた者が、女神に一つだけ願いをかなえてもらえるという。現実の悲しみから家族を救うため、亘は見習い勇者として旅立つが、幻界にも争いと差別が渦巻いていた。少年の壮大な冒険が始まる三部作の上巻。旅の仲間や不思議な種族との出会いは、亘に現実とは異なる価値観を教える。願いをかなえるためだけの冒険が、次第に他者の苦しみと自分の弱さを深く知る旅へ変わっていく。旅の驚きも尽きない。
『ブレイブ・ストーリー 中』(初刊:2003年3月)
運命の塔を目指して幻界を旅する亘は、仲間たちと出会い、各地に散る宝玉を求めて試練へ挑む。水人族や獣人族など多様な種族が暮らす世界は美しい一方、北と南の対立や根深い偏見を抱えていた。同じく願いをかなえたい美鶴は、亘とは異なる道を選び、強大な力へ近づいていく。自分の願いのためなら他者を傷つけてもよいのか。友情と競争、正義と欲望の間で少年たちの選択が分かれていく三部作の中巻。幻界をゲームのような舞台にせず、歴史と政治を持つ生身の現実として描くスケールも魅力。亘は勇者として強くなるほど、仲間の事情と向き合い、単純な善悪では答えの出ない争いへ立たされる。仲間との絆も深まっていく。
『ブレイブ・ストーリー 下』(初刊:2003年3月)
幻界を揺るがす危機が迫り、亘の旅は運命の塔へ向けて最後の局面に入る。仲間と積み重ねた経験を力に変える亘に対し、家族を取り戻したい美鶴の願いはますます切迫していた。現実世界の痛みと幻界の戦いが重なり、女神の前で選べる願いは一つだけ。望んだ過去を取り戻すのか、それとも今ここにいる人々を守るのか。冒険の果てに少年が自分の運命を引き受けるまでを描く、勇気と再生のファンタジー三部作完結巻。勝利よりも、悲しみを抱えたままどう生きるかが問われる終盤。亘と美鶴の対照的な歩みを通じて、本当の勇気とは運命を消し去る力ではなく、痛みごと受け止めて進む力だと描き出す。別れの余韻も胸に残る。
『ICO 霧の城 上』(初刊:2004年6月)
頭に角を持って生まれた少年イコは、村の掟により生贄として霧の城へ送られる。石棺に閉じ込められた彼は偶然脱出し、言葉の通じない少女ヨルダと出会う。影の魔物に狙われる彼女の手を取り、イコは巨大な城から逃げ出す道を探すが、閉ざされた門と仕掛けだらけの回廊が行く手を阻む。なぜ角のある子は捧げられ、ヨルダは囚われているのか。同名ゲームの世界を新たな物語として描く、少年と少女の冒険ファンタジー上巻。城の仕掛けを二人で越えるたび、言葉に頼れない信頼が育っていく。静かな回廊、迫る黒い影、遠くに見える海の美しい情景が、孤独な少年の小さな決意を詩情豊かに彩る。城の謎も次第に深まる。
『ICO 霧の城 下』(初刊:2004年6月)
霧の城からの脱出を目指すイコとヨルダは、互いの言葉がわからないまま、つないだ手と小さな信頼を頼りに進む。城を支配する女王の思惑、角を持つ子どもたちの運命、ヨルダに秘められた力が少しずつ明らかになり、影の魔物は執拗に二人を引き離そうとする。決められた犠牲の連鎖を断ち、外の光へたどり着けるのか。孤独だった二人の絆と、過酷な運命への反抗を描く冒険ファンタジー下巻。脱出の鍵を握るのは、剣の強さだけではなく、相手の手を決して離さないという単純で難しい約束。城そのものに刻まれた長い悲しみが明らかになるほど、二人の小さな抵抗が大きな希望に見えてくる。結末の余韻も深く胸に残る。
『孤宿の人 上』(初刊:2005年6月)
讃岐国・丸海藩。江戸から金比羅代参へ連れ出された九歳のほうは、この地に置き去りにされ、藩医の井上家に引き取られる。ようやく得た居場所で、優しく世話をしてくれた琴江が毒殺された。折しも、幕府の元要人・加賀殿が流罪となって入領し、領内では不審な毒死や凶事が続く。人々は加賀殿を災いを招く悪霊と恐れるが、幼いほうは噂の奥にある孤独へ近づいていく。少女の目から藩を覆う疑惑を描く長編時代ミステリー上巻。ほうの素朴な言葉とまっすぐな観察が、大人たちの恐れや政治的な思惑を浮かび上がらせる。瀬戸内の海に囲まれた小藩の強い閉塞感の中で、災いの噂が静かに広がっていく。藩の運命も大きく揺れ始める。
『孤宿の人 下』(初刊:2005年6月)
妻子と側近を殺した罪で涸滝の屋敷に幽閉された加賀殿は、丸海に災厄を運ぶ悪霊だと恐れられていた。井上家を離れたほうは、引手見習いの宇佐と姉妹のように暮らしたのち、涸滝で下女として働くことになる。頑なに心を閉ざす加賀殿と無垢な少女は、少しずつ言葉を交わし始めるが、水面下では藩の存亡を賭けた計画が進む。連続する凶事の真相と孤独な者同士の絆を描く長編時代ミステリー下巻。加賀殿を怪物に仕立てた噂と、藩が必死に守ろうとする重大な秘密が絡み合い、幼いほうの無垢な存在が凍った心を動かす。身寄りのない者同士が築く揺るがぬ信頼が、政争の闇に人間らしい光を差す。幼い視点が真相を鮮やかに照らす。
『楽園 上』(初刊:2007年8月)
連続誘拐殺人事件から九年。フリーライターの前畑滋子は、ひとり息子を亡くした女性・萩谷敏子から奇妙な依頼を受ける。十二歳で急死した等は、生前、見たことのない少女の姿や家の内部を絵に描いていた。その絵は、十六年前に起きた殺人事件と、不自然な火災で失われた家に結びついているらしい。少年に予知や透視の力があったのか。滋子は取材への恐れを抱えながら、絵の少女と遺された家族を訪ね歩く。『模倣犯』のその後を生きる滋子が新たな謎へ踏み出す長編ミステリー上巻。等が描いた絵を単なる超能力の証拠にせず、子どもが受け取った痛みとして見つめる滋子の慎重さが、二つの事件を結ぶ調査に深い緊張を与える。
『楽園 下』(初刊:2007年8月)
亡き少年が残した絵を追う前畑滋子の調査は、十六年前、ある家族の娘が殺され、遺体が床下に埋められた事件へ近づいていく。加害者と被害者、失踪者をめぐる証言は食い違い、善良に見える人々の暮らしにも暗い秘密が潜んでいた。少年の不思議な力を信じるかどうかより、なぜ彼が遠い事件の痛みを受け取ったのかが、滋子自身に重く問いかけられる。過去を暴く取材は誰を救い、誰を傷つけるのか。二つの家族の長い喪失が交差する『模倣犯』関連作・下巻。大きな犯罪の後を生きる滋子の恐れと、真実を求める責任がせめぎ合う。取材する者、語る者、語られる者のそれぞれにとっての「楽園」を問い直す結末が深い余韻を残す。
『英雄の書 上』(初刊:2009年2月)
小学五年生の森崎友理子は、兄の大樹が同級生を刃物で刺し、姿を消したという知らせに日常を奪われる。なぜ優しかった兄が人を殺したのか。学校や近所で責める視線にさらされる友理子の前へ、言葉を話す不思議な本『エルムの書』が現れる。兄は物語の世界から放たれた邪悪な存在に心を利用されたという。友理子は兄を取り戻すため「無名の地」へ入り、英雄をめぐる物語の仕組みと向き合う。現実の痛みから異世界への旅が始まる長編ファンタジー上巻。兄を怪物と決めつける世間の声に抗いながら、友理子は人の心へ忍び込む物語の恐ろしさと、自分の言葉を持つことの大切さを学んでいく。少女の決意が胸を打つ。
『英雄の書 下』(初刊:2009年2月)
無名の地へ渡り「ユーリ」と呼ばれるようになった友理子は、ヘイトランドを進みながら、狼のようなソラ、戦士アジュ、鳥人アッシュらと出会う。旅の目的は、兄を襲った邪悪な物語を封じること。しかし、英雄を生む物語は人々に希望を与える一方、憎しみや恐怖を糧にして新たな犠牲も求めていた。兄を救いたい願いと世界を守る役目の間で、友理子は自分にできる選択を探す。物語に操られるのではなく自ら語る力を問う長編ファンタジー下巻。旅の仲間はそれぞれ異なる物語を背負い、誰かが定めた英雄像に従うことの危うさを示す。少女の勇気が現実に残した家族の痛みへ届くのか、緊張が続く。旅の余韻も深い。
『小暮写眞館 上』(初刊:2010年5月)
高校一年生の花菱英一、通称・花ちゃんの一家が買った家は、商店街に残る古い写真館「小暮写眞館」だった。ある日、英一のもとへ、背景に女性の泣き顔が浮かぶ心霊写真らしき一枚が持ち込まれる。写真館の名を残したまま暮らす責任も感じた英一は、同級生の店子力や事務員の垣本順子と写真の謎を調べ始める。写り込んだ顔は幽霊なのか、それとも生きる人の強い思いなのか。新しい家と町の縁が広がり始める連作長編上巻。花ちゃんの軽やかな語りと、写真に写る人々への誠実な想像が物語を温かく支える。町の記憶を調べるほど、新居が選ばれた理由と家族の過去も少しずつ見えてくる。家族の秘密も静かに動く。
『小暮写眞館 下』(初刊:2010年5月)
心霊写真の相談を通じて町の人々とつながった花菱英一は、鉄道写真に秘められた思いや、写真館を訪れる人の過去に触れていく。明るく振る舞う家族にも、亡くした妹をめぐる痛みがあり、英一は自分だけが避けてきた記憶と向き合わざるを得ない。写真は真実をそのまま写すのか、それとも見る者の心を映すのか。小暮写真館という古い家が、生者と死者、家族と町を結ぶ場所へ変わっていく。四つの物語が一つの再生へ連なる現代エンターテインメント下巻。弟のピカや友人たちとの会話には明るいユーモアがあり、重い喪失の物語に確かな生活の温度を与える。写すこと、見ること、覚えていることの意味が胸に残る。
『お文の影』(初刊:2011年2月)
江戸の町で暮らす人々がふと目にする、亡き者の影、ものに宿る執念、決して消えない記憶。自分にだけ見える女の姿に怯える者、博打に人生を狂わされる者、因縁を背負った家族など、それぞれの怪異が秘められた事情を語り出す。恐ろしいのは幽霊そのものか、それとも悲しみや欲に囚われた人の心なのか。怪異に触れた者が選ぶ道を、人情味と静かな哀切を込めて描く六編を収録。単行本『ばんば憑き』を改題した、怖くも心に沁みる時代怪談短編集。商家や長屋の細やかな暮らしが怪異に現実味を与え、恐怖の後には必ず人の選択が残る。声を上げられなかった者へ寄り添う視線が、六つの話を静かに結ぶ。余韻も深い。
『チヨ子』(初刊:2011年7月)
押し入れの奥から見つかった古い玩具「チヨ子」、雪の日に現れる少女、持ち主の記憶を映す品、説明のつかない聖なる痕跡。ありふれた日常に小さな裂け目が開き、忘れていた罪悪感や喪失、子どものころの孤独が姿を現す五つの物語を収録する。超常の現象に遭遇した人々は、怖れながらも自分が置き去りにしてきた思いと向き合っていく。怪異の謎を明かす面白さと、誰かを忘れずにいることの温かさが響き合う、幻想味豊かな現代ホラー・ミステリー短編集。子どもと大人では同じ出来事の見え方が違い、そのずれが謎と哀しみを生む。身近な品に刻まれた思いを解きほぐすほど、失われた時間を抱えて生きる人の姿が浮かぶ。
『ソロモンの偽証 第1部 事件 上』(初刊:2012年8月)
城東第三中学校の二年生・柏木卓也が、クリスマスの朝、雪の校庭で遺体となって発見された。警察は自殺と判断するが、学校へ「卓也は同級生に殺された」と告発する匿名の手紙が届く。校長は事実を伏せようとし、教師、保護者、生徒たちの間で疑念が広がる。さらに報道が学校を取り囲み、もう一つの事故まで起きてしまう。十四歳の死をめぐり、誰の言葉が真実なのか。噂と沈黙が日常を壊していく『ソロモンの偽証』第I部「事件」上巻。匿名の言葉は、送り主の意図を離れて学校全体を動かし始める。生徒たちの小さな嘘と大人の判断が積み重なり、誰も引き返せない状況が生まれる過程を緻密に描く。緊張が続く。
『ソロモンの偽証 第1部 事件 下』(初刊:2012年8月)
柏木卓也の死を殺人だと告発した手紙は、同級生・大出俊次らを名指ししていた。警察が自殺と結論づける一方、マスコミの報道と大人たちの保身は、生徒の間に新たな対立を生む。告発者を捜す動き、傷ついた友人の証言、誰にも言えなかった事情が重なり、学校は真相から遠ざかっていく。藤野涼子は、事件について自分たちが何も知らないことに気づき始める。冬から春へ、疑惑が膨張し続ける『ソロモンの偽証』第I部「事件」下巻。一つの死をめぐる記憶は、話す者の恐れや願いによって形を変える。藤野涼子が傍観者でいることをやめ、自分の責任として事件に向き合うまでの成長も大きな軸となる。青春の痛みも深い。
『ソロモンの偽証 第2部 決意 上』(初刊:2012年9月)
学校も警察も柏木卓也の死の真相を明らかにできない。中学三年生になった藤野涼子は、同級生自身の手で学校内裁判を開くことを提案する。被告は殺人を告発された大出俊次。裁判官、検察、弁護人、陪審員を生徒が務め、教師や保護者にも証言を求める前例のない計画が動き出す。だが、裁判への参加をめぐり仲間の間にも亀裂が入る。真実を知りたい一心が新たな暴力にならないかを問いながら進む『ソロモンの偽証』第II部「決意」上巻。裁判という形式を借りることで、噂に埋もれた個々の声を公平に聞こうとする生徒たち。その決意は大人の社会にも波紋を広げ、学校の隠してきた傷を一つずつ開いていく。
『ソロモンの偽証 第2部 決意 下』(初刊:2012年9月)
藤野涼子たちは夏休みの学校内裁判へ向け、証拠を集め、証人を訪ね、法廷の手続きを学んでいく。検察側と弁護側は同じ出来事を異なる角度から見つめ、柏木卓也を知る生徒たちの記憶にも大きな隔たりがあることが分かる。告発状を書いた人物の葛藤、被告となった大出の家庭、沈黙してきた者の痛み。子どもだけで真実に届けるのかという不安を抱えながら、それでも裁判の日は近づく。仲間がそれぞれの役割を引き受けていく『ソロモンの偽証』第II部「決意」下巻。準備の過程そのものが、他人の言葉を疑いながら尊重する訓練になっていく。正義感だけでは進めない現実に直面し、生徒たちは互いの弱さと役割を受け入れていく。
『ソロモンの偽証 第3部 法廷 上』(初刊:2012年10月)
夏休み、城東第三中学校の体育館で、生徒たちによる学校内裁判が始まる。検察官役の藤野涼子は、大出俊次が柏木卓也を殺したという告発を立証しようとし、弁護側は証言の矛盾を突く。法廷には友人、教師、保護者が次々と立ち、同じ冬の日の出来事を異なる言葉で語る。噂で決めつけていた人物像が崩れるたび、生徒たちは真実を知ることの重さを思い知らされる。十四歳の死を自分たちの言葉で問い直す『ソロモンの偽証』第III部「法廷」上巻。法廷で語られる言葉は、事件の証拠であると同時に、証人自身の痛みの告白でもある。検察と弁護の応酬が、誰かを悪者にして安心する危うさを鋭く浮かび上がらせる。
『ソロモンの偽証 第3部 法廷 下』(初刊:2012年10月)
学校内裁判が進み、柏木卓也の死をめぐる証言は核心へ近づく。告発状はなぜ書かれ、誰を救おうとしたのか。被告の大出俊次だけでなく、柏木を知る一人ひとりが、沈黙や嘘の責任を問われる。検察官役の藤野涼子と弁護側は、勝ち負けではなく、死者の本当の声に届くため最後の証人と向き合う。真相を明かした後、生徒たちはそれぞれの日常へどう戻るのか。長い裁判と成長の物語を結ぶ『ソロモンの偽証』第III部「法廷」下巻。判決だけでは終わらない喪失と、その後を生きる責任まで描くことで、法廷は死者を裁く場所ではなく、生者が再び歩き出すための場へ変わっていく。法廷後の静かな余韻まで胸に残る。
『桜ほうさら 上』(初刊:2013年2月)
父が不正の汚名を着せられ自害した後、笙之介は故郷を離れ、江戸の富勘長屋で暮らし始める。目標は父の無実を証明し、家名を立て直すこと。写本の仕事をしながら手がかりを探す彼は、長屋の住人や貸本屋の治兵衛、勝気な娘・和香らと出会い、身近で起こる奇妙な事件にも関わっていく。桜が結んだ縁に支えられ、笙之介は他人の痛みに耳を傾けながら、自分の家族を襲った罠へ近づく。人情と謎が静かに花開く長編時代小説上巻。書くことに秀でた笙之介の力が、文書の真偽を見分ける手がかりになる一方、紙に残らない人の証言も彼を支える。江戸で得た縁が、復讐に傾く心を少しずつ変える。町の人情も温かい。
『桜ほうさら 下』(初刊:2013年2月)
父の汚名をそそぐ証拠を求める笙之介の前で、江戸の町に散らばっていた出来事が一つにつながり始める。偽文書に仕組まれた罠、姿を隠す者、さらわれた人をめぐる追跡。故郷へ戻ることだけを願っていた笙之介は、富勘長屋で築いた縁と、和香への思いを通じ、自分が守りたい暮らしを見つめ直す。恨みを晴らすことと、亡き父の名を本当に取り戻すことは同じなのか。桜のようにはかなくも確かな人の縁を描く長編時代小説下巻。事件の解決だけでなく、笙之介がどこを故郷とし、誰と人生を築くのかが大きな読みどころ。ほろ苦い別れと新しい門出を、満開の桜の情景が優しく包む。人が生き直す強さも心に残る。
『荒神』(初刊:2014年8月)
元禄の世、東北の小藩にある山村が、一夜にして壊滅した。生き残った少年が語るのは、人も家も呑み込む巨大な「化け物」の姿。隣り合う香山藩と永津野藩は長く反目し、それぞれがお家騒動や奇妙な病を抱えていた。永津野藩の朱音は、逃げてきた者を助け、災厄の正体を探ろうとするが、藩の面目と古い因縁が人々の協力を阻む。怪物はどこから来て、なぜこの地を襲うのか。人間の争いと圧倒的な脅威を描く歴史怪奇エンターテインメント。藩同士が責任を押しつけ合う間にも怪物は迫り、身分も過去も異なる者たちが生き残るため手を結ぶ。怪異の迫力と、恐怖の中で試される人の勇気が息もつかせない。人の情も胸を打つ。
『悲嘆の門 上』(初刊:2015年1月)
サイバー・パトロール会社「クマー」で働く大学一年生の三島孝太郎は、ネット上の違法情報や犯罪の兆候を監視している。全国で遺体の一部が切り取られる不可解な殺人が続き、その監視チームへ加わった矢先、同僚の大学生・森永が失踪した。孝太郎は行方を追い、新宿の廃ビル屋上に立つ不気味な怪物像へ近づいていく。無数の言葉が悪意を増幅する現代で、噂はどこまで現実を変えるのか。日常の事件と異界の影が交差し始める長編ファンタジー上巻。画面の中の残酷な画像と、現実の被害者の人生との距離に孝太郎は戸惑う。情報を見つける技術だけでは悪意を止められないと知り、調査は彼自身の正義感を試していく。
『悲嘆の門 中』(初刊:2015年1月)
失踪した同僚を捜す三島孝太郎は、西新宿の廃ビルで元刑事の都築と出会い、石像では説明できない「怪物」を目撃する。さらに〈狼〉を名乗る謎の少女・森崎友理子が現れ、ネットに拡散する悪意が、物語の力を通じて現実を侵していると告げる。クマー社長を襲う悲劇と連続切断事件が重なる中、正義感に駆られる孝太郎は、守護戦士の忠告を越えて犯人を追おうとする。『英雄の書』の世界と現代が結ばれる長編ファンタジー中巻。怪物は石や肉体だけでなく、人が作り広める言葉の形も取る。異界を知るユーリと現代の捜査を続ける都築の視点が重なり、事件の規模と危険が一気に広がる。孝太郎の覚悟も厳しく試される。
『悲嘆の門 下』(初刊:2015年1月)
連続切断事件の犯人を追い続ける三島孝太郎の心は、目の前の惨劇と復讐心に蝕まれていく。守護戦士やユーリが止めても、彼は憎しみが生んだ物語の中心へ進む。一方、妹の友人・園井美香の周囲に積み重なった負の感情も、新たな事件を引き起こそうとしていた。悲しみを正義の物語に変えることは、人を救うのか、それとも別の怪物を生むのか。言葉と物語の力、その危うさを問い、孝太郎が「悲嘆の門」へ至る長編ファンタジー下巻。孝太郎の選択を単純な英雄譚にせず、怒りが人を動かす力と傷つける力の両方を描く。異界の戦士と現代の若者の物語が結びつき、重い問いを読者へ残す。苦い余韻が長く胸に残る物語だ。
『過ぎ去りし王国の城』(初刊:2015年4月)
進学先が早々に決まった中学三年の二月、尾垣真は中世ヨーロッパの古城を描いた精密なデッサンを拾う。絵に自分の分身を描き込むと、その姿を通じて城の中へ入れることが分かった。真は美術に詳しい同級生と、ある女性を仲間にし、閉ざされた部屋を探索する。城には囚われた少女の気配があり、現実で居場所を失った人々の記憶とつながっていた。絵の世界へ逃げ込むことと、現実を生き直すことの違いを問い、孤独な魂の共鳴を描く現代ファンタジー。現実で傷ついた三人は、絵の中では自由に動けても、そこに留まり続けることはできない。城に囚われた存在を救う探索が、互いの孤独を言葉にする小さな勇気へ変わる。
『この世の春 上』(初刊:2017年8月)
宝永七年、下野北見藩の元作事方組頭・各務家へ、赤子を連れた女が助けを求めてきた。赤子は藩の御用人頭・伊東成孝の嫡男。藩では若き主君・北見重興が突然、強制隠居させられる政変が起きていた。各務多紀と父は、なぜ一介の上士にすぎない自分たちが頼られたのかを探る。名君と評判だった重興に、残虐な別の顔があるという噂も広がる。藩中枢の争いと「憑きもの」の気配が交差する長編時代ミステリー上巻。多紀の落ち着いた観察と父の経験が、権力者の言葉だけでは見えない藩の姿を映す。赤子を守る身近な務めが、やがて国全体の過去を問う探索へ広がっていく。城内に広がる疑念と恐れも丁寧に描かれる。
『この世の春 中』(初刊:2017年8月)
北見藩の前藩主・重興は五香苑に押し込められ、奇妙な発作に苦しんでいた。各務多紀らは彼を見守る中で、重興が幼いころから抱えてきた記憶の断片と、亡者のような声に触れる。藩を動かす者たちは病として片づけようとするが、過去の罪を知る人々は口を閉ざす。名君と殺人鬼という二つの評判は、どちらも真実なのか。閉ざされた屋敷の調査が、北見家に代々隠されてきた闇へ踏み込む長編時代ミステリー中巻。重興の発作を怪異か病かと決めつけず、語られる人格ごとの記憶をたどる過程が緊張を生む。多紀は恐れながらも、彼らを一人ずつ違う存在として受け止めようとする。主従の信頼も大きく揺さぶられていく。
『この世の春 下』(初刊:2017年8月)
前藩主・重興を苦しめる声と人格の謎を追う各務多紀たちは、北見藩の過去に封じられた出来事へたどり着く。藩を守るために重ねられた沈黙、傷ついた子どもの心が生んだもの、権力の陰で犠牲になった人々。憑きものを退けるだけでは、長い苦しみは終わらない。多紀は重興の内にいる存在一つひとつの声を聞き、春を取り戻す道を探す。人の心に生まれる怪異と政治の罪を壮大に描く長編時代ミステリー下巻。権力争いの解決よりも、奪われた声を聞き届けることが藩の再生には欠かせない。長い冬を生き延びた人々が、それぞれの春を選び取るまでを深い慈しみで描く。多紀の勇気と慈しみが、藩の未来を静かに照らす。
『宮部みゆき全一冊』(初刊:2018年10月)
デビューから三十年にわたる宮部みゆきの仕事を、小説、随筆、対談、インタビューで立体的にたどる記念本。単行本に未収録だった作品やエッセイ、創作の原点から代表作の舞台裏まで語るロングインタビューを収め、現代ミステリー、時代小説、怪談、ファンタジーへ広がる作家世界を一望できる。作品を生み出す日々の工夫、愛読書やゲームへの思い、読者との歩みも紹介。自作朗読「負の方程式」を収めたCDを付し、三十年分の魅力を一冊に凝縮したコンプリートブック。年譜や周囲の証言も交え、作品を読んできた人には再発見を、これから読む人には入口を用意する。作家の創作と人柄の両面に触れられる、資料性と娯楽性を兼ねた一冊。
『さよならの儀式』(初刊:2019年7月)
長く働いた家庭用ロボットとの別れ、戦争や災害の記憶を受け継ぐ者、異なる姿で生きる人々、宇宙へ向かう時代の家族。少し先の未来や、現実からわずかにずれた世界を舞台に、人間と機械、生者と死者、親と子のつながりを描く八つのSF短編を収録する。技術が進んでも、別れの痛みや誰かを思う気持ちは消えない。表題作をはじめ、驚きに満ちた設定の先で、何を人間らしさと呼ぶのかを静かに問いかける、切なく温かな初の本格SF作品集。ロボットや宇宙といった題材を、遠い未来の珍しさではなく、いまの暮らしにつながる問題として描く。別れを受け入れる小さな儀式が、残された者の明日を照らす。想像力の広がりも豊かだ。
『新しい花が咲く ぼんぼん彩句』(初刊:2023年4月)
婚約を破棄され、行く当てもなくバスの終点まで乗った女性。学級閉鎖で留守番中に不思議な事件へ巻き込まれる少年。兄を自殺同然の事故で亡くし、偶然出会った中学生に心を揺さぶられる妹。俳句の十七音から着想を得た十二の物語が、現代と過去、日常と怪異を色鮮やかに行き来する。短い一句が人の記憶や罪、再生の物語へ広がり、怖さ、切なさ、ユーモアの後に深い余韻を残す。『ぼんぼん彩句』を改題した短編集。各編の題名にはもとになった一句が掲げられ、言葉の取り合わせが思いがけない人物や事件を呼び出す。人生の一瞬を切り取る俳句と短編小説の響き合いも大きな魅力。十二編それぞれの色合いも鮮やかだ。
『宮部みゆきが「本よみうり堂」でおすすめした本 2015-2019』(初刊:2023年11月)
宮部みゆきが「本よみうり堂」でおすすめした本 2015-2019 <中公新書ラクレ>
発売日:2023年11月10日
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『読売新聞』の読書欄「本よみうり堂」で宮部みゆきが二〇一五年から二〇一九年に紹介した百二十五冊をまとめる。国内外のミステリーや小説にとどまらず、海外ノンフィクション、社会時評、歴史、科学、恐竜まで、作家の好奇心が向かった本を幅広く案内。作品の魅力を簡潔に伝えながら、なぜ今読むのか、どんな発見があったのかを自身の言葉で語る。一冊から次の一冊へ読みたい世界が広がる、ブックガイドであり読書エッセイでもある新書。紹介文には結末を明かさず興味を引く工夫があり、異なる分野の本同士が思わぬ線で結ばれる。長年の読書家でもある小説家の視点を気軽に楽しめる。次に読む本を探す楽しさも広がる。
『宮部みゆきのおすすめ本 2020-2024 in 本よみうり堂』(初刊:2025年9月)
宮部みゆきのおすすめ本 2020-2024 in 本よみうり堂 <中公新書ラクレ>
発売日:2025年9月8日
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宮部みゆきが『読売新聞』の「本よみうり堂」で二〇二〇年から二〇二四年に薦めた百五十四冊を収録する。国内外の話題のミステリー、ノンフィクション、社会時評、猫や俳句の本、絵本やイラスト集まで、幅広い読書の成果を新書判の見開きごとに紹介。作品の面白さを損なわず、時代背景や読みどころを親しみやすく伝える。五年間の社会の変化と作家の関心をたどりながら、まだ知らない本との出会いを次々に手渡す読書エッセイ兼ブックガイド。短い紹介の一つひとつに、作品への敬意と読者を誘う喜びがある。前巻から続けて読めば、五年ごとの社会の関心や出版の風景が変わる様子も見えてくる。本を選ぶ喜びも伝わる一冊だ。
『人・で・なし』(初刊:2026年7月)
宮部みゆきの現代ミステリーから、入口の印象を鮮やかに裏切る四編を選んだ短編集。学校の用務員として働く老人が、卒業研究を装った児童たちの計画に巻き込まれる「サボテンの花」。万引きした十歳の少年が発する無言のSOSを古書店主が読み解く「うそつき喇叭」。偶然出会った女性の身の上話から意外な計画が生まれる「十年計画」、人の善意と残酷さを映す表題作を収録する。謎解きの驚きと人間への温かな眼差しを一冊で味わえる傑作選。既刊の人気作から選び直した構成は、初めて読む人にも宮部ミステリーの幅を伝える。子どもや孤独な人が発する小さな合図を見逃さない四編が心に残る。驚きの先に温かな余韻が残る。